文字 
  • ホーム
  • コラム
  • 世の中にたったひとつしかないもの 倉敷中央病院長 小笠原敬三

世の中にたったひとつしかないもの 倉敷中央病院長 小笠原敬三

 バオバブの生えた星からやって来た星の王子さま。サンテグジュペリは、「星の王子さま」の中でたくさんの戯画的人物を描きます。

 自分の体面を保つことに汲々(きゅうきゅう)とする王、称賛の言葉しか耳に入らない自惚(うぬぼ)れ屋、酒を飲む事を恥じ、それを忘れるために酒を飲む呑(の)み助、夜空の星の所有権を主張し、その数の勘定に日々を費やす実業家、1分ごとにガス灯の点火や消火を行っている街灯点灯夫、自分の机を離れたこともないという地理学者。

 そして、彼の伝えたいことが語られます。美しいたくさんのバラではなく、慣れ親しんだ世の中にたったひとつしかない1本のバラだけが大切なのだと王子さまに告げるキツネ。定めた約束を守って仲良くなること、そのことを思い浮かべ、期待するだけで心が躍動する。若者は「待つこと」にときめきとわくわく感を感じ、大人はたくさん「持つこと」に満足する傾向にあるのでしょうか。

 このバラの話は、豊臣秀吉がたくさんの見事に咲いた朝顔を愛(め)でるためにやって来る前に、千利休がすべての朝顔を引きちぎり、1輪の朝顔のみを飾ったという、「衆」より「個」に価値を認める逸話を思い出します。

 旅行先のパリで、二枚目俳優ジェラール・フィリップが朗読した「星の王子さま」のレコードを入手し、ときどき絵本のようにページをめくっては挿絵を楽しんだものでした。しかし、後に引っ越しの際に捨ててしまったのが惜しまれます。

(2014年3月27日付山陽新聞夕刊「一日一題」)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年03月27日 更新)

タグ: 倉敷中央病院

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ