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(5)レビー小体型認知症 万成病院医師 高橋弘美

たかはし・ひろみ 徳島市立高、徳島大医学部卒。慶應病院、徳島大学病院、園瀬病院(徳島市)などを経て2006年から万成病院常勤。精神保健指定医、臨床研修指導医。

 超高齢社会を迎え、認知症にかかる人は年々増加しています。家族、親戚、知人などが認知症になることも珍しくはありません。われわれ自身が認知症になる可能性もあります。認知症は身近な病気となってきています。

 認知症と一言に言っても、原因はさまざまです。認知症というのは、一つの病気ではなく、さまざまな原因によって脳の神経細胞が障害され、その結果記憶、思考、言語などの認知機能が低下した状態の総称です。現在日本で一番多い認知症の原因はアルツハイマー型認知症です。血管性認知症、レビー小体型認知症がこれに続きます。この三つで認知症のほとんどを占め、三大認知症と呼ばれています。

 アルツハイマー型認知症はよく知られていますが、「レビー小体型認知症」という名前は聞き慣れない方も多いと思います。これは、小阪憲司氏の1976年以降の研究報告によって国際的に知られるようになった、比較的新しいタイプの認知症です。しかし、認知症の約2割を占め、今や認知症診療で重要な位置を占めています。

 名前の由来は、脳の神経細胞の中に「レビー小体」という異常な円形の構造物がたくさん出現することです。レビー小体は、最初パーキンソン病の脳で発見されました。レビー小体が多く出現する脳の場所は違いますが、レビー小体型認知症とパーキンソン病は類縁の病気と考えられています。

症状

 レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症と同様に、記憶障害などの認知機能障害が徐々に進行して日常生活に支障を来してくる病気ですが、アルツハイマー型認知症とは違う特徴があります。

 まず、初期の頃より、幻視がよく見られます。「ネズミが床を走り回っている」「(死んだはずの)妻が寝ている」「虫が這(は)っている」など、具体的で生々しいのが特徴です。ネズミや虫をとろうとしたり、妻のために救急車を呼んだりする人もいます。家族を「他の人だ」と言う誤認妄想も多くみられます。

 もう一つの特徴は、ぼーっとして反応の乏しい時と、しっかりして反応の良い時があり、症状が動揺することです。1日の中で変動することもあり、調子の良い日と悪い日があるというように、長い間隔で変動することもあります。

 また、パーキンソン病と類縁の病気ですから、体が固い、動きが遅い、転倒しやすいなどのパーキンソン症状も特徴の一つです。これ以外に、睡眠中に大声を出したり、激しく体を動かすというレム睡眠行動障害や失神、うつもよく見られる症状です。アルツハイマー型認知症と比べると初期には記憶障害が軽いため認知症と気づかれないこともあります。

 前記のような症状のうちいくつかがみられる時には、専門の医療機関を受診することをおすすめします。

治療

 根本的な治療法はありませんが、アルツハイマー型認知症に使われる抗認知症薬が認知機能や幻視、妄想に効果があると言われています。

 漢方薬や少量の向精神薬も症状を安定させるために使われます。

対応

 レビー小体型認知症に特徴的な幻視は生々しく、そこから不安や妄想が生じることもあります。「そんな物はない」「おかしなことを言っている」と頭から否定すると、周囲の人に不信感を持ったり、攻撃的になることがあります。本人の話をよく聞き、安心してもらえるような対応を心がけることが大切です。症状に変動があるため、本人に、状態にあわせて入浴や食事に誘導するといった配慮も必要と思われます。

 また、パーキンソン症状のため転倒の危険が高いのも特徴です。骨折から寝たきりになると生活の質は大きく低下します。つまずきやすい物やすべりやすい物を取り除いたり、歩行時には周囲の人が見守るといった環境調整が必要でしょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年04月07日 更新)

タグ: 精神疾患万成病院

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