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(7)認知症のリハビリテーション 万成病院リハビリテーション課 作業療法士 藤川信

ふじかわ・まこと 佐賀県立武雄青陵高、川崎リハビリテーション学院卒、1994年から万成病院に勤務。現在同病院リハビリテーション課長、作業療法士、一般社団法人岡山県作業療法士会理事・事務局長。

 超高齢化社会が進む中、65歳以上の高齢者のうち、認知症の人は2012年時点で462万人、認知症になる可能性のある軽度認知障害(MCI)の高齢者も約400万人いるといわれています。65歳以上の4人に1人が認知症もしくはその予備群ということになります。

 認知症になると日常生活を送る上で支障が出てきます。認知症の治療には、薬物療法と非薬物療法が行われますが、リハビリテーションは非薬物療法の中の一つです。

認知症の症状

 認知症の症状は、中核症状と行動・心理症状(BPSD)に分かれます。中核症状とは記憶障害、見当識障害、理解・判断力の障害、実行機能の障害などで、行動・心理症状は不安・焦燥、うつ状態、幻覚・妄想、徘徊(はいかい)、興奮・暴力、異食、睡眠障害などがあります。

 例えば、物忘れ(中核症状)がある人が、財布のしまい場所を忘れてしまい、不安が出現したり、物盗られ妄想などの行動・心理症状が出てきます。行動・心理症状は、性格や環境、心理状態などさまざまな要因が絡み合い、日常生活上で問題が起こってきます=図1参照

Aさんの場合

 90歳代男性Aさんは、元軍人で終戦後は役所で勤務をしていました。他の患者さんの言動や行動が気になり、大声で怒りいつも硬い表情をしているため、一人で過ごしていることが多い状態です。

 Aさんの誕生日会を開催した日、マイクを渡すと感謝とねぎらいの言葉を述べる姿がありました。自分の考えや気持ちをしっかりと伝えることのできるAさんには、催し物の場において挨拶(あいさつ)をしてもらう役割を担ってもらうことになりました。Aさんは、自分らしさを感じる中から意欲も向上し、「〜をしてみたい・行ってみたい」という言葉が聞かれ、それを実現していくことで生き生きとした生活が送れるようになりました。

リハビリテーション

 リハビリテーションでは、認知症そのものの治療というよりは、残された機能を最大限に発揮し生活能力を高め、認知症がありながらもその人らしく生活が送れるよう援助していくことでQOL(生活の質)の向上を目指していきます。

 「人の生活はその人にとって『意味のあるしたい作業(活動)』の連続から成り立っている」。人にとって意味のある作業を続け、その結果から満足感や充実感を得て、健康であると実感する。(“作業”の捉え方と評価・支援技術 監修 日本作業療法士協会より抜粋)

 これはすべての人に共通して言えることであり、自分にとって重要なこと・やってみたい作業を行い、またその作業を連続的に行うことで生き生きとした生活が送れるようになります。

その人らしく生きる

 生き生きとした生活を送るためには、認知症の症状や残存機能、生活環境、生活歴、やりたいこと(心が動くこと)などその人をよく知ることが重要となります。周囲の支援や環境調整を行いながら、その人らしく生活を送ることができれば、不安の軽減やうつ状態などの行動・心理行動の改善を図ることが可能となります。

 認知症の方の生活を支援するには、周囲の人が認知症という病気やケアの方法を知ることが大切です。認知症に対するメンタルケア=表1参照=にあるように、認知症の方の視点に立ち援助を行っていく必要があります。

これからの認知症ケア

 厚労省は、認知症施策推進5カ年計画(オレンジプラン)の中で「認知症初期集中支援チーム」を設置し、現在モデル事業を実施しています。早期より認知症の方を支援していくシステムです。認知症のケアにおいては、本人への支援はもちろんのこと家族への支援も重要です。

 認知症の方は地域・施設・病院などさまざまな環境で生活を送っていますが、いかなる環境や認知症のレベルであっても本人らしく生き生きと生活が送れる支援を行っていかなければなりません。認知症の方は、残された能力を最大限に発揮し、“今”を懸命に生きています。今、認知症の方を地域や社会全体で支えていくことができる町づくりが求められています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年05月05日 更新)

タグ: 高齢者万成病院

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