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高齢者の変形性膝関節症の治療 岡山西大寺病院長 花川志郎

はなかわ・しろう 矢掛高、岡山大医学部卒。川崎病院、香川県立中央病院、旭川療育園、岡山大学病院、岡山労災病院を経て、2013年4月から岡山西大寺病院勤務、現在病院長。日本整形外科学会専門医、日本リハビリテーション医学会専門医、日本医師会産業医。

 「診断は変形性膝関節症です。病気ではありません、老化です。あなたの年齢の人は、たいていの人が膝痛を持っています。痛みと上手に付き合ってください」

 「治療法は大きく三つあります。痛み止めなどの薬、ヒアルロン酸などの注射、そして運動です。それぞれ効果がありますが、基本は運動です。あなたは痛みが軽く、レントゲンでも軟骨の摩耗は軽度なので、まず運動療法から始めましょう」

 「今から、運動『招き猫体操』を教えます。招き猫体操を、右脚、左脚、3秒10回ずつ、朝、昼、夜、計3回行ってください。右脚30回、左脚30回です。運動は今から、今日からです。まず、これ以上太らないように食事に注意してください。元気なうちに軽い運動習慣を身に着けてください。悪くなってからでは大変です。散歩もしてください。運動を続けて、80歳の峠を歩いて元気に越えましょう」

 これは先日、外来診察で68歳、体重70キロ、「最近、長く座った後、立ち上がりかけたときに左膝が痛い。歩き始めると、しばらくして症状がとれる」との訴えで来院された変形性膝関節症の女性患者さんに、私が話した言葉です。

 高齢者の変形性膝関節症の多くは、はっきりとした原因がなく軟骨の摩耗、筋肉の衰えや肥満などの多くの要因で発症します。症状は、この患者さんのように、動き始めに、膝に痛み・違和感を覚える軽症の人から、次第に痛み時間が長く、強くなり、日常生活が障害される重症の人まであります。治療は、重症になると、人工関節手術が考慮されます。痛みと付き合って日常が過ごせる人は保存的治療となります。

 保存的治療では、(1)非薬物療法〈運動療法▽装具療法(杖(つえ)、歩行器、足底板など)▽物理療法(温熱など)〉(2)薬物療法―を症状に合わせて行います。

 非薬物療法に対する、日本整形外科学会の推奨度A(行うことを強く推奨する)を要約してみます(変形性膝関節症診療ガイドライン2012年より引用)。

(1)定期的な有酸素運動、筋力強化訓練および関節可動域訓練を実施し、かつこれらの継続を奨励する。

(2)適正な体重にし、維持する。

(3)歩行補装具(杖、歩行器)は、疼痛(とうつう)を低減する。

 変形性膝関節症の治療ですが、第一番、そして重要なのは運動療法です。その中心は大腿(だいたい)四頭筋訓練です。大腿四頭筋訓練は太ももの前の筋肉を鍛える方法です。膝を力いっぱい伸ばし、その位置を数秒間保持するのが一般的です(詳しくは「ロコモチャレンジ!・ロコトレ」のサイトを参照してください)。軽症の場合、この運動でほぼ痛みがとれます。運動療法は、痛みをみながら、主治医と相談し、調整してください。

 私は、大腿四頭筋訓練に上肢の動きを加えた「招き猫体操」を日常の治療に取り入れています(岡山西大寺病院ホームページ、院長コラム第9回を参照してください)。なぜ、手と組み合わせて?と思われるでしょう。上肢と連動することで、「歩く感覚」「体幹が安定し、力が入りやすい」という利点があります。足首を反らすこと(背屈)で下腿・足の静脈・体液の流れを良くし、下腿・足のむくみ(夕方になると靴下が食い込む)予防・治療にもなります。

 下肢の機能を強化・保つことを、誰も助けてはくれません。行うのはあなたです。今日から、今から、元気な時から始めてください。無理をせず、毎日毎日を勝ち組になってください!
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年05月05日 更新)

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