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(8)パニック障害 万成病院理事長・院長 小林建太郎

こばやし・けんたろう 川崎医大付属高、川崎医大卒。川崎医大病院勤務の後、1989年4月から万成病院、現在同病院理事長・院長。日本精神神経学会専門医、精神保健指定医、認知症臨床専門医。

ある日、突然

 その日は突然やってきました。B子さんは29歳の女性、独身で某証券会社に勤めています。元来健康で、仕事も有能で会社からも期待されています。ホテルで開催された会社の60周年記念式典に参加している時でした。突然に激しい胸の痛みに襲われました。息苦しくて呼吸しようとしても空気が入ってきません。動悸(どうき)が続き、冷や汗が出て、手の震えが止まりません。「このまま死んでしまう」と思ったそうです。

 式場でしゃがみこんでしまい、救急車で病院に運ばれました。ただ病院に着いた時にはあれほど激しかった症状はほぼ消失しており、心臓などいろいろな検査を受けましたが、異常はありませんでした。

 その後症状はなく、B子さんは普段通り仕事を続けていたのですが、式典から2週間後、今度は会社の休憩時間中に激しい胸痛に襲われました。それ以来会社に出るのが怖くなり、人ごみを避けるようになり、外出すら不安となって、会社を休むようになりました。

パニック障害の診断

 多くの人は大地震や交通事故に遭遇すると、パニックに陥ります。パニック障害は周りで特別な大事件が起きていないのに、突然に強い不安に襲われ、パニック発作と言われる表1に示したいろいろな症状が出現し、発作がくり返し起こり、混乱状態になってしまう病気のことです。

 パニック障害は100人に2〜3人がかかると言われ、決して珍しい病気ではありません。20〜30歳代に起こりやすく、脳内での神経伝達物質のバランスが崩れることにより起こると考えられており、心や性格が原因の病気ではありませんが、発作がくり返し起こったり、次第に重篤化する場合があります。

症状の悪循環

 パニック発作は強い恐怖感を伴いますが、通常20〜30分でおさまります。ただ何回か発作をくり返すうちに、発作によって取り乱して恥をかくのではないか、誰も助けてくれなかったらどうしようとの思いも強まり、「またあの怖い発作が起こるのでは」という不安を抱える状態になります。これを「予期不安」と呼びます。

 予期不安が強まると、過去に発作を起こした場所や人ごみを避けるようになります。これを「広場恐怖」と言います。エレベーターや美容院、新幹線や高速道路などすぐに逃げ出せない場所が苦手となることが多いようです。

 「パニック発作」「予期不安」「広場恐怖」はパニック障害の3大症状とも言われ、図1に示すように三つの症状が悪循環を繰り返し、パニック障害を悪化、遷延化させてしまいます。

薬物療法が有効

 多くのケースで薬が有効です。薬物療法では、パニック障害の中心であるパニック発作を抑えることを目標とします。使用する薬は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)とベンゾジアゼピン系抗不安薬です。SSRIは効果発現まで3〜4週間かかることが多く、速効性である抗不安薬を併用することが一般的です。ただ治療により発作が起こらなくなっても、すぐに服薬をやめると多くのケースで再発してしまいますので、発作がなくなっても1〜2年は薬を続けることが重要です。

克服するコツ

 薬による治療と同時に、発作時の不安を少しずつコントロールしていくことが大切です。パニック障害は決して生命に危険を及ぼすものでないことを理解して、発作時に冷静に対処し、苦手な場所についても段階的に徐々に慣らしていく訓練もポイントになります。

 不安に振り回されず、不安から逃げず、やるべきことをやっていく姿勢が必要です。

家族や周囲の対応

 家族や周囲のサポートも重要です。まずはこういった病気があることを理解してください。そして、発作が起こっても「すぐに治まる」とそばにいて安心させてください。外出ができにくい場合は当初付き添っていただければと思います。

 また、早期に専門医を受診することが病気の重症化、遷延化を防ぐことにつながると考えています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年05月19日 更新)

タグ: 精神疾患万成病院

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