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(9)強迫性障害 万成病院医師 森祥子

もり・さちこ 岐阜県立大垣東高、川崎医大卒。川崎医大病院、慈圭病院を経て2006年から万成病院に勤務(常勤医)。精神保健指定医。臨床研修指導医。

 「きょうはく性障害」という病気をご存じですか? 「きょうはく」と聞いて「脅迫」と思われる方も多いでしょう。私の手元にある国語辞典を引くと「脅迫=弱みにつけこんでおどしつけること」とあり、「強迫=むりにおしつけること。むりに要求すること」とあります。今回は後者の「強迫」がテーマです。

 さて、「強迫性障害」という病気には「強迫症状」という症状があります。強迫症状は「強迫観念」と「強迫行為」とに分けられます=図1参照

 「強いこだわり」という点で、統合失調症(シリーズ第3回=3月3日付メディカ)の「妄想」という症状と似ていますが、「強迫」の場合は、その考えや行為が本当は無意味であると本人が気付いているようです。つまり「わかってはいるけれど、やめられない」という点が違います。ただし病気になり始めたばかりの頃は、自分の不安を軽くすることに一生懸命でその無意味さに気付かないことが多いようです。

Aさんの場合

 Aさんは20代後半の会社員です。ある日、職場のすぐ近くでぼや騒ぎがあり、Aさんはちょうどその騒ぎの少し前に、自分がそこでタバコを吸っていたことを思い出しました。「あの時、吸い殻はどうしただろうか。ちゃんと火を消したはずだけど」と記憶がはっきりしないくらい普段通りの行動だったようですが、それ以来、吸い殻をきちんと始末したかどうかが気になって仕方がなくなり、何度も吸い殻入れの中を見たり、その場所を行き来したりするようになりました。

 休憩時間だけでは安心できず、仕事の合間を見つけては見に行くようになり、仕事に集中できなくなってしまいました。朝の新聞に火事のニュースがあると「自分のタバコだろうか」と気になって何度も読み返し、「ひょっとして記事を見落としたかもしれない」と新聞を隅々まで何度も読まなくてはいけなくなり、夕刊も読むようになり、他社の新聞も取るようになり…。ついには、睡眠時間をけずってまで新聞を読み続けるようになり、仕事に行けなくなってしまいました。

珍しい病気? 原因は?

 この病気は国や文化に関係なく50人〜100人に1人はいると言われており、比較的多い病気です。そして10代〜30代の若者に多いようです。しかし、治すことのできる病気と知らないために、精神科を受診する人は多くないのが現状です。

 病気の原因は、まだ十分な解明はなされていませんが、遺伝学的要因や神経精神疾患(トゥレット症候群、パーキンソン病など)との関連性が指摘されています。これに心理的なストレスが加わって症状が出ます。大切なことは、性格や怠け癖や養育の問題ではないということです。

症状と治療について

 図1やAさんの他に、幸運や不吉な数、物の位置や対称性に強くこだわる、物を捨てられず過度にため込んでしまうという症状もあります。そして、Aさんのように行為が止められなくなり、一日の大半を強迫行為で過ごすようになってしまいます。

 自分だけでは不安を解消できずに、家族にも強迫行為をさせる人もいます。そんな自分に疲れ果ててうつ状態になることがあります。また強迫行為にふり回されて家族も疲れ果ててしまい、激しい家庭内不和が生じることがあります

 治療では、本人は(1)うつ状態の改善(2)強迫行為の制止(3)「無意味な不安のもと」である強迫観念の修正―を行います=図2参照。外来通院での治療が中心になりますが、病気の状態によっては入院を必要とすることもあります。入院治療が行える医療機関は、実は多くありません。入院治療をご希望の際は、外来主治医と相談のうえ、各医療機関におたずねください。

 次に家族への支援としては、心理教育を受けていただくのが良いでしょう。心理教育は、病気を悪化させない関わり方を探るためのものであり、家族の苦痛を取り除くためのものでもあります。心理教育についても、本人が治療を受けている医療機関でおたずねください。

 最後に、強迫性障害はきちんと治療をすれば改善する可能性の高い病気です。それぞれの方の困難さはあるでしょうが、ひとりで、もしくは家族だけで何とかしようとせずに精神科にご相談ください。一緒に頑張りましょう。

 
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年06月02日 更新)

タグ: 脳・神経万成病院

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