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老年期のストレスと心の健康 川崎医療福祉大 医療技術学部 リハビリテーション学科講師 大野宏明

おおの・ひろあき 高知県私立高知高、川崎リハビリテーション学院卒。川崎医療福祉大大学院修士課程修了。福間病院(福岡県福津市)、慈圭病院を経て、2010年4月から川崎医療福祉大に勤務。作業療法士。

 現代の高齢者は一昔前とは異なり、元気で長生きするようになっています。そこで、老後の人生をいかに有意義に過ごせるかがメンタルヘルスを保つための課題となっています。

高齢者のストレス

 高齢者には、特有のストレスがかかります。まず、退職による地位の喪失や配偶者の死、経済的問題など喪失体験による心理的要因です。生きることへの希望を失うことにつながります。

 二つ目は、身体的衰えや、視覚や聴覚などの感覚器の衰えによる身体的要因です。仲間外れにされたような孤独感を抱きやすく、面倒をみてもらうことは自尊心を低下させます。

 三つ目は、脳の萎縮による記憶力や判断力の衰えなどの生物学的要因です。これにより物事への対応や状況への適応が難しくなります。

 四つ目に、精神の病に対する偏見などの社会文化的要因です。高齢者は心の不調を相談せずに我慢する傾向があります。このような要因が重なるため、高齢者には葛藤や不安を抱きやすい素地が準備されているといえます。

「うつ」になりやすい考え方

 高齢者に限らないのですが、「うつ」になりやすい方には特有の考え方(認知)がみられます。「二分割思考」は、満点か0点かの両極端に物事を捉える考え方で、物事が完璧に進まないとストレスを生じやすくなります。「過剰な一般化」は、小さな失敗でもそのような事態が永久に起こると決め付けてしまうため、絶望感を抱きやすくなります。

 「肯定面の否認」は、自分の否定的な面ばかりを気にかけてしまい、自分に自信を持つことができなくなります。「すべき思考」は、「〜しなければならない」という考えに支配され、小さな失敗でもストレスを強めてしまいます。このような偏った思考は、物事を悪く考えてしまうため抑うつ的になります。

「うつ」にならないために

 「うつ」にならないための予防的な生活習慣や思考法について述べます。

 (1)独りでも楽しめる趣味をもつ=老後に備えて退職前から自分の趣味をもっておくことは新たな生活への適応を助けます。

 (2)社会とのつながりを大切にする=高齢者の1〜2割は家に閉じこもっており、抑うつ感が高い傾向にあります。趣味仲間などと触れ合うことはストレスの緩和につながります。

 (3)生きがい就労をする=働けるうちは、人生経験を活(い)かした無理のない就労が求められます。

 (4)今、何ができるかを考える=年だからとあきらめず、友人を誘って行動してみると気持ちも変わります。

 (5)ゆっくり過ごす能力を身につける=忙しい毎日に価値を見いだす方がいます。老いとともに無理がきかなくなるので、ゆとりある生活が必要になります。

 (6)必要な援助を求める=高齢者は助けを求めることを潔しとしませんが、自分ではできないことが出てくるのも事実です。物事の優先順位をつけ、信頼できる人に援助を求められるようにしておく必要があります。

 (7)自分の努力した過程を認める=失敗を悔いるよりも、チャレンジした努力を認めると気持ちも前向きになれます。

 (8)「うつ」の正しい知識をもつ=生物学的な病気のため、精神面の不調を心の弱い人間がなるものと恥じないで相談しましょう。また、高齢者の原因不明の身体症状の背景には「うつ」が存在することがありますので注意が必要です。

 最後に、に示すような高齢者特有のうつ症状がみられるならば、早めに病院を受診することをお勧めします。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年06月17日 更新)

タグ: 高齢者精神疾患

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