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(10)不眠症 万成病院医師 高坂知岳

こうさか・ともたけ 岡山一宮高、青山学院大、香川医科大卒。香川医大病院、慈圭病院勤務ののち、香川医大医学部精神科助手などを経て2014年1月から万成病院に勤務。日本精神神経学会専門医、精神保健指定医。

不眠症は国民病?

 ストレスの多い現代社会において成人の約5人に1人が不眠に悩んでいると言われています。今回は数ある睡眠障害=表1参照=の中でも一般的に経験しやすい不眠症について、Aさんを例に話を進めてみましょう。

不眠で悩むAさんの日常

 中間管理職のAさん50歳。職場では休憩を惜しんで働き、残業のため帰宅は夜10時過ぎ。帰宅後も仕事が気になりリラックスできないため、夕食時にビール1リットルの晩酌で気を紛らわせています。遅い夕食後、熱い湯で入浴した頃には既に12時近く、晩酌の酔いもさめ、ほてった体で布団に入っても眠気は来ません。しかも仕事のことが頭に浮かび、ますます目が冴(さ)えてきました。そこで睡眠剤代わりに日本酒を飲むことにしました。

 以前なら1合で眠気が来たのに、最近は2合飲んでも眠れません。結局3合飲んで寝付きましたが、夜中に目覚め朝まで布団の中で悶々(もんもん)と過ごしました。休日は普段の寝不足を補うため午前中布団の中で過ごし、趣味や運動習慣がないため午後も自宅でブラブラして過ごし週明けを迎えます。

生活習慣から生じる不眠

 不眠に悩む方の中で、Aさんの日常に一部該当する方はいませんか。もしかするとその不眠は生活習慣を変えることで改善するかもしれません。Aさんの例を振り返りながら考察してみましょう。

自律神経を切り替える

 通常、人は悩み事を抱えたりAさんのように熱心に職務を遂行している時、程度の差はあれ緊張状態、換言すると交感神経が優位となり、その結果覚醒状態となります。この状態が過剰であれば頭は冴え気が休まらず夜は眠れないので、交感神経優位な状態(緊張状態)から副交感神経優位な状態(リラックスした状態)に切り替える工夫が必要となります。

 その方法はさまざまですが、例えばストレッチや腹式呼吸、好きな音楽を聞く、軽めの運動(後述する深部体温の上昇にも役立ちます)等がこの切り替えに役立ちます。ただし運動は夜9時までとした方がよいでしょう。

睡眠と入浴の関係

 熱い湯での入浴は交感神経を優位とし覚醒状態とします。一方、ややぬるめの湯は副交感神経を優位にするため不眠の方には好ましいのです。また、身体活動(運動を含む)や入浴等により一度上昇した深部体温が下降しつつある時に自然な眠気が生じますが、運動や入浴直後の就寝は体表からの放熱を妨げ深部体温の下降を遅延させるため寝付きが悪化します。このため、就寝は入浴後のほてりが引くのを待ってからの方がよいでしょう。

睡眠と飲酒の関係

 たまに適量飲酒することは寝付きを良くし、中枢神経を抑制してリラックスさせるプラス効果があります。ただし、睡眠時間は短縮し総合的には睡眠の質を低下させます。また、酒を常習すると短期間で慣れが生じてプラス効果は減弱します。プラス効果を取り戻そうと酒量を増しても再び慣れが生じます。Aさんの酒量増加や夜中の覚醒は飲酒の特性だったのです。

 また、酒量の増加はさまざまな身体疾患やアルコール依存症の原因となり要注意です。結局のところ、睡眠剤代わりの飲酒は破綻する傾向にありお勧めできません。なお、既に後戻りできない酒量に達している場合は、飲酒問題に詳しい専門機関へご相談ください。

良質な睡眠は朝から準備

 人は、朝起床後に明るい場所で過ごすことで、体内時計がリセットされ14〜16時間後に眠くなるのですが、休日のAさんのように起床時間が遅れると、それだけ体内時計も後退し寝付きが悪くなる可能性があります。前日不眠であっても朝寝坊は1〜2時間までとし、起床後は30分程度明るい場所で過ごすことが夜間の自然な寝付きにつながります。なお、午後3時までであれば、30分間までの昼寝は問題ないとされています。

それでも改善しない不眠

 生活習慣を見直しても改善しない不眠の場合、表2で示した疾患・状態が背景に存在する可能性があるため、精神科や睡眠外来等の専門医受診が必要になるかもしれません。

 =おわり=
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年06月17日 更新)

タグ: 精神疾患万成病院

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