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多様化する「がん治療」 医師3人が講演 ”悩み電話相談室おかやま”10周年シンポ 

講演後、会場の質問に答える(右から)田中教授、山本院長補佐、加藤院長

 厚生労働省が6月公表した昨年の人口動態統計で、がん死者が約32万6000人と過去最多を更新。対策の充実を目指すがん対策基本法も成立した。日本人の3人に1人が亡くなる病の治療は今、どうなっているのか。岡山市で開かれたボランティア団体「がんの悩み電話相談室おかやま」の開設10周年記念シンポジウム「岡山のがん医療を語る」(山陽新聞社など後援)で、外科、内科、緩和医療と異なる角度からアプローチする第一線の医師3人が最新治療について講演。約230人の市民が耳を傾けた。

 治療の三本柱とされるのが手術と抗がん剤による化学療法、放射線治療。中でも多くのがんで第一選択肢は手術による病巣の切除だ。岡山大大学院医歯薬学総合研究科の田中紀章教授(消化器・腫瘍(しゅよう)外科学)は肝臓がんを例に最新外科治療を語った。

 例えば、がんが進行し、肝臓に入る大きな血管・門脈をふさぐように固まりを作った場合、以前は手術が難しかった。しかし、生体肝移植で培った血管を扱う技術を応用し、門脈ごと病巣を取って、後で血管をつなぐ手術が可能になった。

 生存率は一年後で65%、二年後が40%弱だが「がんが進行し手術が難しい場合も、よく検討する必要がある」と田中教授。「今すぐ命が失われるような状況でも、手術すれば生き延びるチャンスが大きくなる。簡単には、あきらめられない」

 患者への負担が軽く、早期がんで広まっているのが内視鏡治療。地域がん診療拠点病院である倉敷中央病院の山本博院長補佐(消化器内科)は胃がんを例に、治療の進歩を紹介した。

 ここ数年で主流になったのが粘膜下層剥離(はくり)術。内視鏡のナイフなどで「がんの周りを丸く切り抜いて粘膜下層ごとはがす」という手法だ。円形のワイヤで病巣を縛るように切り取る従来の粘膜切除術に比べると「取り残しが少なく、大きながんでもできる」。胃がんの場合、病巣の大きさが二センチ程度までだった内視鏡治療の範囲が広がったことになる。

 化学療法についても「入院で受ける患者が減り、ふだんの生活を続けられる外来での治療が増えている」と最近の流れを話した。

 在宅患者向けに、薬などで心身の痛みを取り除く緩和医療の普及を図る、かとう内科並木通り診療所(岡山市並木町)の加藤恒夫院長もケアの実例を報告。「不安、苦痛が大きい患者、家族を援助するのが緩和ケア。患者はがんで苦しんだとき、いつでも受けられる」と、緩和医療イコール終末期医療という認識は誤りだと警鐘を鳴らした。

 さらに、化学療法を行う医療機関や、かかりつけ医と連携して治療した患者の例を紹介。「緩和ケアは化学療法など積極的治療とも併用できる」と、診断後の早い段階からの活用を訴えた。

 座長を務めた同相談室教育研修部長の堀井茂男・慈圭病院副院長も「緩和医療は死のための医療でなく、希望を持った生きるためのケア。この考え方がまだまだ行き渡っているとは思えず、一歩一歩広めていきたい」とまとめた。


 がんの悩み電話相談室おかやまは、がん治療をめぐる患者や家族の不安、疑問に応じている。相談は毎週土曜日午後二時~五時、086―264―7033。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年07月01日 更新)

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