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(4)小腸カプセル内視鏡検査 川崎医大消化管内科学 塩谷昭子准教授

塩谷昭子准教授

小腸カプセル内視鏡は、直径1・1センチ、長さ2・6センチ(写真上)小腸カプセル内視鏡から送られる画像データを受信・記録する装置

正常な小腸の画像(写真左)病変(潰瘍)のある小腸の画像

 「ミクロの決死圏」と邦題の付いた48年前の米国映画がある。脳出血で意識不明となった亡命科学者を救うため、医療チームが乗った潜航艇を特殊技術で極小化させ、体内へ送り込むという筋書きだった。直径1・1センチ、長さ2・6センチの小腸カプセル内視鏡は、何やらSF映画を連想させる。

 検査を受ける人は、超小型カメラを内蔵したカプセルを適量の水で飲み込む。カプセルは消化管の自然な蠕動(ぜんどう)運動に伴って管腔(かんくう)を進み、1秒間に2枚以上撮影、画像を体外の記録装置に転送。その後、排便時に排出される。医師は数万枚に及ぶ画像を読影、小腸病変の診断をつける。

 川崎医大病院では、保険適用9カ月前の2007年1月から臨床研究で先駆的に導入した。施行数は今年6月末までに約700件。「岡山県内の医療機関では最多、中四国でも屈指の件数」と語る塩谷は、全ての症例の診断に関わってきた。当初は原因不明の消化管出血に対して行うケースが主だったが、最近は「クローン病を治療するインフリキシマブなど生物学的製剤の効果を確認する検査が増えた」と話す。画像読影は、見落としを避けるため各症例とも医師2人で行っている。

 従来の小腸検査法は超音波、造影CT、小腸二重造影、プッシュ式内視鏡などだった。小腸は長さが約6メートルあり管腔全体を観察することは困難なため、長く「暗黒大陸」と呼ばれてきた。しかし00年にカプセル内視鏡、01年にダブルバルーン小腸内視鏡が開発され、小腸疾患の診療は飛躍的に進歩した。

 塩谷は12年4月、小腸カプセル内視鏡検査の論文を発表した。川崎医大病院で07年から5年間に行った341例(12―95歳)、404件についてまとめた。虚血性心疾患、脳梗塞など動脈硬化に関連する基礎疾患を持つ患者が多かった。検出した病変は、小腸びらん・潰瘍が約4割を占めた。その約半数は、痛み止めや血液をさらさらにするため処方された非ステロイド性抗炎症薬(アスピリンなど)の副作用だった。また早期の空腸がんが2例に見つかり、外科手術が行われた。小腸の早期がんが見つかるケースは極めてまれだという。

 川崎医大病院では、09年3月からカプセルの位置をリアルタイムで確認できる装置を導入した。腸管洗浄剤など前処置薬を原則として使わずに検査を行っている。「体への負担が少なく高齢者でも安全に施行できる。ダブルバルーン小腸内視鏡を併用することで、小腸疾患の診断に有用なツール(道具)となった」と現状を語る。

 00年ごろ、ヘリコバクターピロリ菌の研究で渡米、同国消化器病学会の会場でカプセル内視鏡の存在を初めて知った。師事していたピロリ菌研究の大家、同国べーラー大消化器内科のデビッド・グラハム教授が「最近こういうものが出来てきている」と、塩谷をシークレットブース(限られた人に公開する医療器具展示場)にこっそり案内した。

 カプセル内視鏡が捉えた小腸内腔画像を目の当たりにして「こんなにも鮮明に見られるのか」と驚いた。「日本人で見たのは私が恐らく最初」。その後、グラハム教授の指導を受け、カプセル内視鏡検査の前処置について臨床研究を行った。06年7月に川崎医大へ赴任、小腸カプセル内視鏡の有用性を学内で訴え、半年後に導入が実現した。

 日本カプセル内視鏡学会が昨年4月に設けた「読影支援技師認定制度」を運営する委員会で、副委員長を務めている。医師の監督指導の下でカプセル内視鏡の画像診断を支援するエキスパートの養成が目的。塩谷は「診断効率を上げるため、読影技師の育成は重要な課題」と強調する。

 (敬称略)

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川崎医大病院(倉敷市松島577、(電)086―462―1111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年07月21日 更新)

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