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(2)この時期に注意が必要な不整脈―心房細動 岡山ハートクリニック ハートリズムセンター長 山地博介

 やまじ・ひろすけ 倉敷天城高、岡山大医学部卒。三豊総合病院(香川県観音寺市)などに勤務後、2004年に米国クリーブランド・クリニックに留学。心臓病センター榊原病院内科部長を経て、09年3月から岡山ハートクリニック内科部長。同9月からハートリズムセンター長兼任。

【カテーテルアブレーション】肺静脈の周囲を円周状に焼灼し肺静脈から発生する余分な電気信号が心臓内に伝わらないようにします

 梅雨が明けて暑い夏がやって来ました。脱水や熱中症に注意が必要なのは言うまでもありません。しかし脳梗塞にも注意が必要です。冬に多いと思われる脳梗塞ですが、この暑い時期である夏にもっとも多く発生します。脱水で脳の血管が血栓などで閉塞することが原因です。しかし脳梗塞の3分の1は不整脈が原因であることは意外と知られていません。その不整脈の名前は心房細動です。

心房細動とは

 心臓は洞結節(ペースメーカー細胞)から発生する規則正しい電気信号に従って動いています。通常は1分間に50~100回の電気信号が洞結節から発生しますが、心房細動の時には洞結節以外の心房のあちらこちらから不規則に1分間に350~500回の電気信号が発生して心臓を不規則に動かします。その結果心房の中で血液が滞り、血液のかたまり(血栓)が形成され脳の血管に詰まることで脳梗塞(心原性脳塞栓症)になります。心房細動の原因ははっきりしていませんが、加齢に伴い増加してくることは事実です。

 また心房細動には時々心房細動を起こす発作性心房細動と、いつも心房細動である慢性心房細動の2種類があります。発作性心房細動の場合は発作時に動悸(どうき)を自覚することが多いのですが、半数近い人は症状がありません。また慢性心房細動では動悸の自覚はもっと少なくなります。運動時の息切れなどを認めますが年のせいだと思う人も多く、症状からは判断しにくくなります。

診断

 心房細動は心電図で診断可能ですが、発作性心房細動では発作時でないと診断ができないため健診などの心電図検査だけでは見逃される可能性があります。動悸の症状がある時は脈を測ります(検脈)。脈のリズムや強弱が乱れていれば心房細動の可能性があります。無症状の人でも1日1回検脈をすることで心房細動を発見できることもあります。検脈が苦手という方には家庭血圧を測ることをお勧めします。血圧測定時には脈拍数も出るため普段より脈拍数が多くなっていたり、エラーで計測できないことがあれば心房細動の可能性があります。

治療

 心房細動の治療には薬物療法と薬物に頼らない治療(非薬物療法)があります。

 薬物療法には、心房細動の発生を抑制する薬剤(抗不整脈剤)と血栓の形成を予防する薬剤(抗凝固療法)があります。抗凝固療法には以前からあるワーファリンと最近開発された新規経口抗凝固薬があります。ワーファリンは食事制限や血液検査で投与量を調整する必要がありました。しかし新規経口抗凝固薬では食事制限はなく、投与量を調整するための血液検査も原則不要です。またワーファリンと比較して脳梗塞の発生頻度や副作用である出血性合併症の頻度も低下させることが確認されており、ワーファリンに代わる治療薬として使用頻度が増えています。

 しかし薬物療法では心房細動は治りません。これまでは治らなかった心房細動ですが、最近ではカテーテルを使用した手術(カテーテルアブレーション)=図参照=を行うことで心房細動を根治させることが可能です。心房細動の発生源である肺静脈の周囲をカテーテルで焼灼(しょうしゃく)して余分な電気信号が発生しないようにすることで発作性心房細動であれば90%は根治することが可能です。しかし慢性心房細動の場合は複数回の手術が必要となることが多く、根治率も70~80%程度と低くなってしまいます。

 心房細動は発作性から慢性へ進行する病気であり、できるだけ早い段階でカテーテルアブレーションを行うことが根治への近道とも言えます。2~3時間の手術、3泊4日程度の入院でカテーテルアブレーションが実施可能です。手術の安全性も高くなっており、退院後は日常生活が普段通り可能です。この治療法は不整脈専門医のいる医療機関で行えますが、すべての人が適応ではないため治療を検討される人は不整脈専門医に相談されることをお勧めします。

 ◇岡山ハートクリニック(岡山市中区竹田54の1、(電)086―271―8101)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年08月04日 更新)

タグ: 心臓・血管

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