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糖尿病と認知症 岡山旭東病院 顧問兼内科 長谷川完

 はせがわ・かん 岡山大安寺高、岡山大医学部卒。岡山大第三内科入局などを経て2003年から岡山旭東病院に勤務、04年から現職。日本内科学会総合内科専門医、日本内科学会認定医、日本内分泌学会内分泌代謝専門医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医。

 最近のニュースで年間1万人が認知症で行方不明になっていると報道されました。わが国では認知症を有する高齢者の数が2012年時点で462万人に達していると推計されています。

 認知症は、もの忘れ(記銘力障害)により日常生活や社会生活に支障をきたす状態をいいます。糖尿病を合併する認知症の原因の約半数は、アルツハイマー病です。他に脳血管障害に伴うものと、アルツハイマー病と脳血管障害の両者が合併した混合型があります。アルツハイマー病は徐々に悪化しますが、脳血管障害型では段階的に進行します。

 アルツハイマー病の脳組織変化としては、「β(ベータ)アミロイド」と呼ばれるタンパクの沈着(老人斑)と、非常に溶けにくい「タウタンパク」からできる神経原線維変化です。

 認知症の中心となる症状は記憶障害です。もの忘れは誰にでもあります。しかし認知症での記憶障害は、「朝食をとったことを忘れる」「人と会ったことを忘れる」など経験したこと自体を忘れることが特徴です。

 認知症の診断には、認知機能検査と画像検査があります。MRIでは大脳の萎縮と短期記憶をつかさどる「海馬」の萎縮、SPECT検査では血流低下などを見ます。最近ではPET検査でβアミロイド沈着を観察する試みも行われています。

 近年、糖尿病と認知症との関わりが注目されています。久山町研究(福岡県久山町での疫学研究)では、糖尿病があるとアルツハイマー型認知症は2・05倍、血管性認知症は1・82倍の発症率の増加が見られました。血糖値においては、空腹時血糖値よりも食後血糖値の方が関連し、さらに血糖の変動幅が大きいほど認知機能が低下します。また低血糖も認知症のリスクとなります。

 糖尿病を合併する認知症の原因は、遺伝・環境因子に加えて、アルツハイマー病ではインスリン抵抗性(インスリンの効きが悪い)と高インスリン血症が脳内のβアミロイド沈着を引き起こすことに起因します。脳血管障害型では動脈硬化が関与します。

 認知症は完治が望めません。従って、認知症の発症予防を考えた糖尿病治療、認知症の早期発見、早期治療が必要となります。

 糖尿病治療薬のうち、チアゾリジン系薬は認知機能を改善させます。またインクレチン関連薬は、低血糖のリスクが低いことや、血糖の変動幅を改善する作用があるので有効と考えられています。わが国ではまだ行われていませんが、速効性インスリン点鼻も効果があると報告されています。

 認知症の予防には生活習慣の改善も大切です。糖尿病の良好なコントロール(低血糖を起こさない)とともに、高血圧と脂質異常症の改善、体重の適正化、社会交流と知的な活動、運動の習慣、大豆、海藻、牛乳、乳製品、果実と緑黄食・淡色野菜の多い健康的な食生活、禁煙、良好な睡眠などが大切です。

 認知症を高齢者の病気としてとらえるのではなく、若い時からの糖尿病予防・治療が、認知症リスクを減少させることになります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年08月04日 更新)

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