文字 

食物アレルギーとともに 学校給食(4) インタビュー

かなもり・ようこ 島根県益田市出身、広島女学院大大学院修士課程修了。病院勤務を経て、NPO法人ヘルスケアプロジェクトを設立。同大生活科学部非常勤講師、日本アレルギー学会会員。

みずうち・ひでつぐ 岡山市生まれ、愛媛大医学部卒。国立岡山病院勤務を経て、1987年より国立病院機構南岡山医療センター勤務。日本アレルギー学会専門医、日本小児科学会専門医。

 学校における食物アレルギーの対応について、広島市でアレルギーの子どもや保護者への支援活動に取り組むNPO法人「ヘルスケアプロジェクト」の鉄穴森(かなもり)陽子代表(管理栄養士)と、国立病院機構南岡山医療センター(岡山県早島町)の水内秀次小児科長(日本アレルギー学会専門医)に聞いた。

NPO法人ヘルスケアプロジェクト代表 鉄穴森(かなもり) 陽子さん
家庭でも食育考えて
 

 ―学校給食を提供する側にとって、食物アレルギー対応はどんな課題を抱えていますか。

 多くの自治体で言えると思うが、私が聞いている範囲でも、栄養士、教職員とも給食の献立管理、授業準備といった本来の業務に加えて事務作業などが増え、仕事は非常にタイトになっている人が多い。そんな中で食物アレルギーの対応もこなしているのだから、どうしてもミスが起きやすくなる。だからこそ、事故防止に向けたチェックは複数の目で行うべきだ。

 ―献立立案や調理に携わる人は、どんな点に留意したらよいのでしょうか。

 最優先は「安全安心」。「楽しくおいしいもの」という考え方もあるが、事故を起こしては元も子もない。アレルゲンの誤食や混入を防ぐために日々考えて行動することが大切だ。

 ―具体的にどんな取り組みがありますか。

 管理職やリーダーはもちろん、給食に携わる職員全員が食物アレルギーの正しい知識を持つこと。その上で、原材料が確認できる献立表を作り、調理場と学校現場で情報を共有する。保護者との情報交換にも努めてほしい。

 ―献立で工夫できることはありますか。

 可能なら誰が見ても分かりやすいメニューにする。例えば、東京の給食誤食による死亡事故の原因になった「チーズ入りチヂミ」は、見ただけではチーズが中に入っているかどうかが分からない。卵やチーズといったアレルゲンを使う場合、見ただけですぐに使っていることが分かるような料理にすれば、それだけミスは少なくなる。

 アイデア次第ではアレルゲンを含まない献立も増やすことができる。小麦をかたくり粉に代えたり、牛乳の代わりに豆乳を使ったりすれば、みんなで一緒に食べることができる。

 ―NPO活動で食物アレルギーの子どもたちの食育に取り組んでいますが。

 私は、当事者である子どもが、なるべく早く自分の体や食物アレルギーについて理解して、食べていいかどうかを判断できるようになった方がいいと思う。そうすれば、もし周りの人の見落としがあっても、最後は自分で自分の命を守ることができる。いずれ大人になれば、自分で判断しなくてはならないのだから、小学生になったら家庭でも考えてほしい。


国立病院機構南岡山医療センター小児科長 水内秀次さん
親、医療と連携密接に


 ―食物アレルギーのある子どもが増えています。子ども自身や保護者、学校が気をつけることは。

 食物アレルギーは一人一人違う。除去が必要な食物があるなら、きちんと主治医の診断を受けること。診断書や、原因食物、症状、アナフィラキシーの有無などの情報を詳しく記載した「学校生活管理指導表」を医師に用意してもらい、学校に提出する。除去食や代替食といった対応は医師の診断に基づいて行わなくてはならない。

 しかし実際は、そうした書類の提出がまだまだ少ないのが現状だ。昨年の文部科学省の調査によると、食物アレルギーがある児童・生徒の約8割、アナフィラキシーを起こしたことがあるケースでも約6割が学校に書類を出していない。正しい情報の把握は学校での対応の第一歩なので、必ず出してほしい。

 ―事故防止や緊急対応で大切なことは何ですか。

 食物アレルギーは、子どもが学校に通うようになってから発症するケースが少なくない。特定の食物を食べた後に激しい運動をすることで起きる「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」は学校で起きることが多い。

 想定外の事故に備えるには学校ぐるみで取り組むことが大事だ。いざというとき、だれが何をするかといった役割分担や行動計画をきちんと決め、繰り返し訓練しておくと安心だ。

 ―東京・調布市で起きた誤食事故をきっかけに、学校の食物アレルギー対応が本格的に議論されるようになりました。学校と保護者はどう向き合えばいいのでしょうか。

 学校や給食センターで、家庭とまったく同じ対応を行うことは難しい。例えばアレルゲンを除去するだけでなく、食べられる食材に置き換える「代替食」の調理をしようと思っても、施設の規模や整備状況、配置される人員数などによってはかえって危険を招く場合もある。

 現状ではまず学校も給食センターも情報をオープンにすること。置かれた条件下でできること、できないことをはっきりさせ、保護者に誠意を持って説明する。その上で子どものために望ましい対応を話し合ってほしい。学校と保護者、医療機関が密接に連携を取ることが、事故防止にも安心にもつながる。

 (おわり)

 ヘルスケアプロジェクト 栄養と運動の両面から、地域に根ざした健康づくりをサポートしようと、管理栄養士、健康運動指導士、心理カウンセラーらが2005年に広島市で立ち上げたNPO法人。食物アレルギー対応は、食育や中高年の生活習慣病予防などと並ぶ主要活動で、料理教室や親子交流会を企画し、ホームページではレシピ集も公開している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年08月27日 更新)

タグ: 子供アレルギー

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ