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(13)万成病院 他職種を知り、学び合うチーム医療

10病棟で行われた口腔ケアの勉強会。歯科衛生士、看護スタッフ、管理栄養士が集った

地域住民も参加する万成病院恒例の夏祭り

(上段左から)小林建太郎理事長・院長、矢野裕美看護部長(下段左から)藤原ゆみ歯科課長、菅原明美課長

 万成病院は今年創立60周年を迎えた。岡山県内有数の精神科病院で560床を持つ。常勤医11人、看護スタッフ220人、作業療法士らコメディカルスタッフ90人。主に認知症、統合失調症の診療を行っている。

 8月中旬の月曜午後、身体合併症のある患者が入院する10病棟のデイルームで口腔(こうくう)ケアの小さな勉強会が行われた。認知症を患い、食べ物や水分を飲み込む嚥下(えんげ)機能が低下した70代女性患者が車いすでのケアを受けた。女性患者は鼻から管を入れる経鼻経管(けいびけいかん)で栄養をとっているが、現在は口から食べられるようにリハビリ中。

 「あーん、してください」と藤原ゆみ歯科課長(歯科衛生士)が穏やかに声を掛け、女性患者の口の中に歯ブラシを当てた。看護スタッフ5人、管理栄養士1人が参加しており、それぞれ患者に話し掛け、患者が笑うと皆の顔もほころぶ。看護スタッフから質問が出た。口腔ケアの意義や歯ブラシの使い方についてだった。藤原課長は、口腔ケアは誤嚥性肺炎など感染予防に効果があるとエビデンス(科学的な根拠)に基づいて説明した。この場は病院職員の学び合いの場であり、院内ではごく日常的な光景だ。

 医療現場では今「チーム医療の推進」が合言葉となっているが、「仕事の押し付け合いになってはいないだろうか」と小林建太郎理事長・院長は述べ、大切なのは「他職種を知り、学んでいく姿勢」と指摘する。

 2002年から毎年10月に開いている院内学会は他職種を知る試みの一つ。歯科医師、歯科衛生士、看護師、作業療法士、言語聴覚士、心理療法士、精神保健福祉士らが各分野の研究発表を行い、参加者全員で議論を交わす。矢野裕美看護部長は07年の院内学会で、調査を基に「風通しの良い職場風土をめざして」と題して発表。院内学会とは別に、看護部が中心となり多くの職種が参加する研修会も開いてきた。「職員同士が切磋琢磨(せっさたくま)し患者さんのためにレベルアップを図りたい」と矢野部長は言う。

 01年から「職員の教育研修の充実」と2本柱で、病院全体で取り組んできたのが「地域連携の強化」。病院の総合相談窓口として06年から設けた地域連携室(医師1人、精神保健福祉士4人)は、患者と家族だけでなく、地域の民生委員や愛育委員、高齢者施設などからの相談も受ける。精神科疾患の患者が退院する際には、地域定着が図られるように地元の保健師や民生委員らと前もって会議を持つ。

 菅原明美・地域連携室課長(精神保健福祉士)は「院内にとどまらず地域へ出向いて相談に応じ、地域で他職種や多くの事業所とチームを組み、綿密な横のつながりを築きたい」と話す。

 今年5月、厚生労働省は全国に約34万床ある精神科病床を今後大幅に削減する方針を固めた。16年度以降の診療報酬改定などで病床削減と患者の地域移行を誘導するという。

 万成病院はここ数年、徐々に患者の地域移行を進めている。小林理事長・院長は「単に地域移行すればいいのではなく、いかに患者さんが地域で生き生きと暮らせるかが本筋の話だと思う。病院がバックアップする形で地域定着を図りたい」と語る。



◇ 万成病院(086―252―2261)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年09月01日 更新)

タグ: 精神疾患万成病院

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