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(4)ペースメーカー治療 岡山ハートクリニック内科部長 川村比呂志

かわむら・ひろし 岡山高、岡山大医学部卒。岡山大病院、済生会今治病院(愛媛県)、心臓病センター榊原病院などを経て、2009年2月から現職。これまでのペースメーカー関連手術経験は約700件。日本不整脈学会の植え込み型除細動器/ペーシングによる心不全治療研修履修。内科認定医、麻酔科標榜医、循環器専門医。

徐脈とペースメーカー

 正常な心臓は一分間に50から100回程度規則正しく血液のポンプとして動いています。心拍数が50回未満になることを徐脈といい、強い症状を伴う徐脈は治療の対象となります。

 心臓の収縮や拡張といった調和のとれた働きは心臓内部を流れる電気信号で調整されていますが、電気信号の発生頻度が少なくなる洞不全症候群という疾患や、電気信号がうまく伝わらない房室ブロックという疾患になると徐脈になります。またそのような疾患以外にも徐脈となることがあります。

 原因としては薬の副作用や甲状腺機能低下症、電解質異常などが挙げられますが、それらの原因を取り除くと徐脈が改善しペースメーカー植え込みが不要となることもあります。

 高度の徐脈になると動悸(どうき)、ふらつきやめまい、目の前が真っ暗になる、失神するといった症状が現れます。そのような状態では自動車の運転や高所での作業はできません。失神すると大きな事故につながるからです。動悸やふらつきがあり徐脈の可能性がある方は早めの検査が必要であり、適応があればペースメーカー植え込みとなります。手術時間は約1時間、入院期間は5日から1週間程度です。

 実際の手術では本体を鎖骨の下付近に植え込み、本体から伸びるリードと言われる電線を血管内を通して心臓内部に固定します。リードは心筋の収縮を感知したり、本体からの電気信号を右房や右室に伝えるペーシングという働きをしたりします。さまざまな作動が設定可能ですが、最も基本的な機能は設定された心拍数以下にならないよう電気信号を心臓に送ることです。

術後の注意点と経過観察

 植え込み後はペースメーカーを植え込んだ側の腕を極端に激しく動かす運動は制限されますが、日常生活程度であれば問題ありません。ゴルフやテニス、登山を楽しまれる方もいらっしゃいます。

 しかし電磁波や磁力による影響には注意が必要であり、IH式電磁調理器は近づきすぎるとペースメーカー誤作動の原因となります。携帯電話は本体から15センチ離せば使用可能ですし、電気毛布や電気ストーブも使用できます。

 また半年に一度程度、外来でペースメーカーの電池電圧や作動チェックを受けていただくことが必要となり、電池電圧が下がってくると本体交換手術を行います。個人差がありますが電池寿命は5年から10年程度です。

 徐脈の治療として右室をペーシングするのですが、逆にそのために心機能が悪化したり不整脈の一つである心房細動の発症率が高くなるという報告があり、最近の機種ではできるだけ右室ペーシングを減らす機能を持つものが多くなってきました。

 また今まではペースメーカーを植え込むとMRI検査を受けることができませんでしたが、2012年10月から本邦でもMRI検査に対応する機種が使用できるようになりました。今後新規に植え込みが必要となる患者さまにとってはこれらの機能は大きな恩恵となり、当院では積極的に上記機能を持った機種を植え込んでいます。

 さらに付加機能として不整脈を予防したり治療したりする機能を持ったものもあり疾患に応じた機種の選択を行っています。

最後に

 症状を伴う高度な徐脈は上記の通りペースメーカーの適応ですが、症状のない軽度の徐脈のみではペースメーカーの適応はありません。

 しかし、職業として自動車の運転や高所での作業を行う方、特殊機械の操作を行う方では症状が現れる前から治療を行わないと危険な場合もあります。患者さまそれぞれの背景と病状を十分に考え、納得できるまで説明をしてくれる経験豊富な専門施設への受診をお勧め致します。

◇ 岡山ハートクリニック(岡山市中区竹田54の1、(電)086―271―8101)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年09月01日 更新)

タグ: 心臓・血管

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