(5)狭心症(虚血) 岡山ハートクリニック副院長 村上正明
むらかみ・まさあき 金光学園高、愛媛大医学部卒。岡山大病院、国立岩国病院(現国立病院機構岩国医療センター)、心臓病センター榊原病院などを経て、2009年から岡山ハートクリニック勤務。12年から現職。これまでに診断カテーテル約7千例、ステント留置術約5千例の経験を持つ。
STと呼ばれる波が急激に何度も上昇した後、心室細動に至ったケースの心電図。心室細動に至ると、血圧はほぼゼロになる
さらに、プラークが壊れると血栓ができて血管は詰まり、心筋に全く血流を送れなくなります。この状態が続くと心筋は働けなくなり死んでしまいます。この状態が心筋梗塞です。冠動脈の疾患の原因としてもう一つ重要なのが、冠動脈のれん縮です。れん縮とは冠動脈のけいれんで、動脈硬化の進行していない部位にも起こります。
虚血性心疾患はさまざまな不整脈を合併します。そしてそうした不整脈により生命予後がさらに悪化することも少なくありません。こうした背景を踏まえて、虚血性心疾患においてよく見られる不整脈について説明させていただきます。
心室性期外収縮
不整脈の中で最も発生頻度が高いのが期外収縮です。心房性のものは危険性はありませんが、心室性は危険性が高く注意が必要なものがあります。
運動負荷心電図で運動量の増加に伴って心室性期外収縮の増加、連発が認められるような症例では、冠動脈に狭窄(きょうさく)病変が存在するために出現している可能性があります。また心筋梗塞の急性期に出現する心室性期外収縮は虚血心筋を発生源としてカテコラミン(ホルモンの一種)の過剰分泌が関与していると考えられていますが、心室性頻拍、心室細動に移動することもあり注意が必要です。
心室頻拍、心室細動
虚血性心疾患の突然死の多くは心室性期外収縮→心室頻拍→心室細動の転帰をたどった結果と考えられます=図参照。最近ではサッカーの元日本代表選手が練習中に心筋梗塞から心室細動になり不幸な転帰となったことはご存知かと思います。
心室頻拍、心室細動の治療は待ったなしであり、血行動態が破綻しているような場合はためらわずに電気的除細動をしなければなりません。
最近注目されているAED(自動体外式除細動器)の普及はこうした重症不整脈による死亡率を下げるものとして期待されています。
心房細動
虚血性心疾患において時々見られます。心筋梗塞の予後を増悪させる代表的な不整脈の一つです。心機能が低下している症例では心拍数が速いと左心不全を来しやすく、早めの除細動あるいは心拍数コントロールが必要です。心機能が低下している場合は不整脈の強いお薬は使用できない場合があり、肺静脈隔離術による根治療法も可能な時代となっています。
洞性頻脈
カテコラミンの過剰分泌などを反映していると考えられます。心不全を来しているために頻脈を生じていることもあり注意が必要です。
洞性徐脈
迷走神経反射ないしは洞結節自体の虚血が考えられます。
房室ブロック
心筋梗塞の急性期で時々認めます。下壁の心筋梗塞に伴う例では、洞結節ないし房室結節の虚血を反映しており緊急ペーシングを要することも少なくありませんが、多くは一過性で恒久的なペースメーカー植え込みを必要とすることはまれです。
しかし前壁の心筋梗塞に伴う例では、広範な刺激伝導系の障害を反映しており、ペースメーカーの植え込みを必要とすることも少なくありません。
おわりに
虚血性心疾患の予防のポイントとして、以下の10項目を守ることが大切です。
食べ過ぎず、肥満に注意する。
薄味を心がけ、塩分の取り過ぎに気をつける。
バランスのよい食事をし、糖分、脂肪分のとり過ぎを避ける。
喫煙、大量飲酒をやめる。
適切な運動を心がける。
寝不足、過労を避け、規則正しい生活を送る。
焦らず、怒らず、あわてず、ゆとりを持って生活する。
家族に心筋梗塞にかかった人がいれば、特に生活習慣に注意する。
高血圧、糖尿病、高コレステロール血症の早期発見のため、定期検診を受ける。
運動時に胸部圧迫などの異常を感じたら、すぐ病院に行く。
適切な治療が虚血性心疾患の予後を改善すると言えます。したがって早めに専門医に相談することをお勧めします。
◇ 岡山ハートクリニック(岡山市中区竹田54の1、(電)086―271―8101)
(2014年09月15日 更新)
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心臓・血管