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(7)乳がん治療 おおもと病院 村上茂樹副院長 診断から乳房再建まで担う

超音波の画像を見ながらコアニードル生検をする村上副院長

(写真左)デジタルマンモグラフィー。拡大機能で小さな石灰化(中央右寄りの円内)も鮮明に見える(同右)従来のアナログマンモグラフィー。石灰化(小さな円内)は拡大鏡でも見つけにくい

 村上の仕事は、午前7時すぎ、前日に院内で撮影した全てのマンモグラフィーの画像に目を通すことから始まる。時間にして30分余り。他の医師の担当分を含め、年間約6千人分に上る。

 乳がんは、進行すると全身に転移しやすいというやっかいな性質を持つ。根治には何より早期発見が重要なため、二重、三重のチェックをかけ、ごく初期のがんの見落としを防ぐ。

 おおもと病院は2010年春にデジタルマンモグラフィーを導入。がんが疑われる微細な石灰化の発見に、以前は虫眼鏡を用いていた。今は、肉眼で苦労せずに見つけられるようになり、精度がさらに高まった。

 悪性を疑う病変が見つかった場合、乳房に針を刺し、腫瘤(りゅう)の組織を切り取って悪性度を調べるコアニードル生検と呼ばれる病理検査をする。手術が必要かどうかだけでなく、腫瘤に対してホルモン療法や分子標的薬が効くかどうかも分かり、術前、術後の治療計画を立てることができる。

 乳がんは乳管の中を枝分かれして広がりやすく、乳房温存手術の場合、医師には、どこまで切除すべきかを見極める能力が求められる。手術の際には、リンパ節を必要以上に切除しないよう、乳輪内に色素を注入しリンパ節への転移を調べるセンチネルリンパ節生検を行う。

 とはいえ、腫瘤の大きさが3センチを超えれば乳房を全摘するのが一般的だ。村上はこの場合でも、全摘しなくて済むよう、術前に抗がん剤治療をし、腫瘤を小さくすることを勧めている。乳頭の近くに腫瘤がある場合も、乳房をできるだけ残すように工夫している。

 もちろん無条件に温存を重視しているわけではない。広範囲に石灰化が広がっていたり、病変が複数ある症例は全摘が望ましいという。

 術後は、乳房を温存した場合、局所再発を防ぐため、放射線療法を行う。続いて、全摘か温存かに関係なく、全身への再発予防のため、抗がん剤治療やホルモン療法を行う。その際、コアニードル生検や術前に抗がん剤治療をしていれば、どんな薬が有効か、事前につかめるわけだ。

 ホルモン療法は最低でも5年間続ける。患者とは必然的に長い付き合いになる。「乳がんは10年たっても再発することがある。術後の補助療法は極めて重要」と強調する。

 全摘した乳房の再建も自身が行う。エキスパンダー(拡張器)を入れ、生理食塩水を定期的に注入し皮膚を伸ばし、半年後にシリコンに入れ替える。

 村上の特長は、診断から乳房再建まで全てを一人で担うこと。通常は外科、腫瘍内科、形成外科などが連携して取り組むが、ここでは患者と一対一だ。「患者に一貫した説明ができ、安心して治療を受けてもらえる」。淡々とメリットを語る村上だが、苦労と努力は並大抵ではない。

 それでも、乳がんは2、3割は再発する。中にはがんが進行してメスを入れられなかったり、薬物治療で効果が出ない人もいる。「病気と闘った末に亡くなった患者さんは忘れることができない。力が及ばなかった無力感や申し訳なさは生涯、胸に残るでしょう」

 乳がん治療に携わるようになり20年余。執刀件数は約千件に上る。岡山県の乳がん治療をけん引してきた山本泰久理事長・名誉院長の手術に立ち会い、技量を磨いた。

 乳がんは他のがんに比べ薬が効きやすいとされており、使用できる種類も多い。同じ病期でもタイプが異なれば使う薬が変わってくる。日本乳癌(がん)学会や研究会、インターネットなどを通じて、最新の情報を入手するよう努めている。

 副作用を抑える漢方薬や緩和医療の勉強にも力を入れる。「終末期に医者がどう関わるかによって、患者さんの人生への充実感は変わってくるはず。絶対にあきらめないし、信頼してくれる患者さんを見捨てない。医者の務めだと思います」

 (敬称略)

 むらかみ・しげき 操山高、鳥取大医学部卒。大阪医科大一般・消化器外科学教室に入局後、大阪・高槻赤十字病院を経て、1991年におおもと病院へ。95年から約2年間、同医科大一般・消化器外科に勤務。97年、おおもと病院に戻り、2010年2月から副院長。乳腺専門医、外科専門医、消化器外科専門医、消化器内視鏡専門医、消化器がん外科治療認定医。54歳。


◇ おおもと病院(岡山市北区大元1の1の5、(電)086―241―6888)
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乳がん薬物治療 5タイプに分け 適切な薬剤選択 

 コアニードル生検でどの治療が効果的なのかが事前に予測できる。

 女性ホルモンと結びついてがん細胞を増殖させるホルモン受容体と、がん細胞の表面に現れるタンパク質(HER2)の陽性、陰性の組み合わせでおおまかに5タイプに分け=表参照、適切な薬剤を選択する。

 ホルモン受容体が陽性ならホルモン薬、HER2が陽性なら分子標的薬が効く。ホルモン受容体が陽性でも、がん細胞の増殖能が高ければ、抗がん剤も併用する。分子標的薬はがん細胞だけを狙い撃ちするため、大きな効果が期待できる上、白血球減少、吐き気、脱毛などの副作用が少ない。

 全体の10%余りを占める遺伝性に起因する乳がんは、トリプルネガティブタイプが多く、ホルモン療法、分子標的薬とも効果が低く、予後が悪い。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年09月15日 更新)

タグ: がん女性おおもと病院

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