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検証 井原・美星の診療所 民間委託1ヵ月 医師 近隣で相互派遣 存続へ市超え連携 中山間地域の新モデルに

美星国保診療所で高齢者を診察する井上所長

 社会福祉法人旭川荘(岡山市祇園地先)が指定管理者となって運営する井原市美星町の市立美星国保診療所(井上雅博所長)が6月に開所し、1カ月が過ぎた。医師の退職で存続が危ぶまれた美星国保病院の建物を引き継いでの再出発だったが、隣接する高梁市の2診療所と医師を相互派遣するなど、新たな診療の形が生まれている。医師不足にさらされる中山間地の新しい地域医療のモデルとして注目を集めそうだ。

 「住民サービス維持を約束した合併協議もあり、病院廃止は阻止しなくてはならなかった」。井原市病院事業部の担当者が、旭川荘に運営を委託した経緯を振り返る。

 二〇〇五年六月、人口約五千人の美星地区の拠点病院・美星国保病院が入院業務をストップした。常勤医二人のうち一人が退職を申し出、入院患者三十五人は井原市民病院や矢掛病院(矢掛町)への転院を迫られた。もともと美星国保病院は町立だったが、合併で井原市立になったばかり。廃止は「合併による周辺部切り捨て」と住民に受け取られかねない。

 こうした中、井原市が着目したのが旭川荘だった。指定管理者制度に基づき高梁市立の備中、川上の両診療所を〇四年秋から運営している実績があり、「旭川荘の協力で医師を確保でき、民間委託は市の支出削減にもつながる」(井原市病院事業部)。再スタートした美星国保診療所は常勤医一人で病床数を十九に減らした。診療科目は内科、外科、整形外科。介護事業も行う。

 同診療所の特徴は、行政の枠組みを超えた連携だ。指定管理者が同じ旭川荘である利点を生かし、川上診療所(常勤医二人)、備中診療所(同一人)との間で医師のカバー態勢をつくった。

 三診療所のうち現在、休日診療と入院患者への夜間当直を行うのは川上だけ。一日の外来患者は高齢者を中心に百人近くに上るなど負担は大きく、美星、備中の医師が川上に応援へ出掛け、休日診療と夜間当直のローテーションに加わっている。

 逆に美星の医師が休診する場合は、川上や備中の医師が代わりに診察する。美星の井上所長も備中での診療のほか、週一、二回は川上での夜間当直をこなす。三診療所のエリアは約二百六十平方キロ。過疎高齢化が深刻な地域医療を四人が担っている。

 井上所長は「数少ない医師が年中無休で対応するのには限度がある。医師増員が難しい現状では、限られた人材をいかに活用するかが大事」と指摘。将来的には、三診療所で医薬品を共同購入し、経営コスト削減につなげたいとする。

 「町外の病院は遠い。身近に医療施設がなければ安心して暮らせない」。孫の付き添いで美星国保診療所を訪れた女性(58)の言葉が、地域の声を代弁した。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年07月13日 更新)

タグ: 医療・話題

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