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(8)肛門括約筋不全と直腸脱 チクバ外科・胃腸科・肛門科病院 鈴木健夫

すずき・たけお 英数学館高、香川医科大医学部(現香川大医学部)卒。香川医科大付属病院、愛媛県立中央病院などを経て2006年からチクバ外科・胃腸科・肛門科病院勤務。

肛門括約筋不全とは

 肛門を締める筋肉(括約筋)の働きが悪くなった状態で、加齢による筋力低下、手術、出産などによる筋肉、神経の損傷などが原因です。便漏れ、ガス漏れが主症状で、経産婦、高齢女性の方に多く見られます。便意を催して我慢できず漏れる切迫性失禁と、意図せずして自然に漏れる漏出性失禁があります。

■診断

 問診と触診が特に重要です。補助的な検査として、肛門超音波検査、肛門内圧測定検査などがあります。

■治療

(1)便がゆるい、下痢の場合は便を固形化することで症状が改善することも少なくありません。止痢剤、整腸剤内服や、食物繊維摂取、緩下剤の調節などが有効です。

(2)筋肉の損傷が明らかな場合は手術で修復することもあります。加齢が原因で直腸、直腸粘膜の脱出を認めない場合は、手術治療が難しいこともあります。

(3)肛門括約筋訓練 肛門を締めたり緩めたりを繰り返す、いわゆる筋力トレーニングで、効果的と言われています。補助的に特殊な器具を用いることもあります。

(4)アナルプラグ スポンジ状の栓を肛門に挿入して、一時的に便の排泄を抑える方法です。

(5)仙骨神経刺激療法 まだ標準化された治療ではありませんが、心臓ペースメーカーのような装置を体内に埋め込み、神経に電気刺激を送り症状を改善させる治療です。

直腸脱とは

 上記の肛門括約筋不全に加え、骨盤内の直腸を固定する筋肉、靭帯(じんたい)が緩み、直腸そのものが肛門から脱出するものを直腸脱といいます。まれに若年者にも見られますが、出産を経験された高齢女性の方に多く、子宮、膀胱(ぼうこう)など他の骨盤内臓器の脱出を合併することもあります。ちなみに直腸の粘膜が緩み、直腸粘膜のみが肛門から脱出するものは直腸粘膜脱といいます。

■診断

 問診と触診で診断できますが、トイレで力み脱出を確認する努責診を行うこともあります。

■治療

 手術治療しかありません。さまざまな術式があり、個々の状態により選択します。

 ◇

 いずれの病気も羞恥心から人には話せず、放置して悩んでいる方も多いようです。治療が困難なケースもありますが、最近では経肛門的に簡単に行う方法や腹腔鏡下に行う方法などがあり、安心して肛門科専門医を受診することをお勧めします。

◇ チクバ外科・胃腸科・肛門科病院((電)086―485―1755)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年10月06日 更新)

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