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(9)血液疾患 倉敷中央病院 上田恭典血液内科主任部長 移植や化学療法、あらゆる治療実施

うえだ・やすのり 京都・洛星高、京都大医学部卒。同大病院を経て、1980年から倉敷中央病院に勤務。同大大学院を経て、2000年から血液内科主任部長、血液治療センター長。10年から外来化学療法センター長を兼務。日本アフェレシス学会理事、岡山県血液製剤使用適正化普及委員会会長。京都大臨床教授。日本内科学会内科指導医、日本血液学会認定血液専門医、指導医。日本造血細胞移植学会造血細胞移植認定医。60歳。

 ―どのような血液疾患の治療を行っていますか。

 上田 一般的に血液がんと呼ばれる造血器腫瘍や、非腫瘍性の造血不全、止血異常など、全ての血液疾患の治療をしています。造血不全はあらゆる種類の血球が減少する再生不良性貧血、止血異常は免疫力で自分自身の血小板が破壊される特発性血小板減少性紫斑病、血友病などがあります。

 ―造血器腫瘍(血液がん)はどのような病気ですか。

 上田 細菌やウイルスから体を守る白血球、酸素を運ぶ赤血球、止血を担う血小板は造血幹細胞が分化(成長)したものですが、分化の過程でがん化して正常な造血や臓器が障害される病気です。急性白血病、骨髄異形成症候群、慢性骨髄性白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などがあります。白血病は、がん化する細胞によって骨髄性とリンパ性に分かれます。

 ―倉敷中央病院の主な疾患の患者数は。

 上田 2013年は新患ベースで、急性白血病は44人、骨髄性とリンパ性がほぼ3対1の割合です。骨髄異形成症候群は新患が70人、うち38人が入院されました。慢性骨髄性白血病は10人。悪性リンパ腫は148人でうち145人が入院。多発性骨髄腫は24人、再生不良性貧血は7人が入院し治療をしています。

 ―白血病はどのような症状が現れますか。

 上田 急性白血病は出血斑の出現、発熱、貧血による動悸(どうき)など。慢性骨髄性白血病は特別な症状は有りませんが、健診で見つかるケースが多いです。

 ―白血病の治療法は。

 上田 急性白血病は、複数の抗がん剤を組み合わせた化学療法を行い、骨髄に白血病細胞が5%以下になり通常の造血が回復する寛解状態を目指します。患者の年齢にもよりますが、全体の7、8割は一度は寛解に至ります。その後、地固め療法といってさらに強力な化学療法を続け、より深い寛解に持ち込みます。これだけ治療しても、長期間寛解を続けられるのは全体の半分以下ですので、再発リスクが高い場合は造血幹細胞移植を検討します。

 ―悪性リンパ腫、多発性骨髄腫についても教えてください。

 上田 悪性リンパ腫は、白血球の一種であるリンパ球ががん化し、リンパ球が集まっているリンパ節が腫れます。進行が速い場合と遅い場合では戦略が少し異なります。多発性骨髄腫は、抗体を生産する形質細胞ががん化したもので、骨髄内で腫瘤(りゅう)をつくるため、骨折したり、臓器の機能が低下したりします。

 ―近年、良い新薬が登場しているそうですね。

 上田 急性前骨髄球性白血病は、漢方薬由来の内服薬であるレチノイン酸が良く効きます。悪性リンパ腫の多くを占めるB細胞性リンパ腫には、抗体薬であるリツキシマブ(商品名リツキサン)の併用が有効です。慢性骨髄性白血病はイマチニブ(同グリベック)の登場で、大部分の患者が移植を受けずに長期生存が可能となり、さらに強力な薬剤も使えます。ただ、多くは高価で経済的負担が大きいのが欠点です。

 ―造血幹細胞移植について教えてください。

 上田 造血器腫瘍では、寛解に入っても再発リスクが高い場合や通常の治療で効果が得られなかった場合に行います。自分の造血幹細胞を使う自家移植と、他人の細胞を使う同種移植があります。自家移植は多発性骨髄腫や悪性リンパ腫で行います。同種移植は、寛解期の移植でも、全体の3~4割は再発したり、死亡しますが、治療が全く効かない人でも、1~2割は移植によって長期生存できます。同種移植は急性白血病や骨髄異形成症候群が主な対象となります。当院での同種移植は年間40例ほど。うち、ミニ移植と呼ばれる方法が約7割を占めます。造血幹細胞は、骨髄、末梢血(まっしょうけつ)、胎盤内の臍帯血(さいたいけつ)から得ることができます。

 ―ミニ移植とは。

 上田 通常は、大量の抗がん剤投与と放射線照射での非常に強力な前処置を行い、患者の造血を完全に破壊した上で造血幹細胞を移植しますが、強力な前処置を行わなくても、移植されたリンパ球の持つ免疫力で腫瘍細胞を排除できることが分かったため、通常の移植が不可能な高齢者や臓器障害のある患者に対して、弱めの前処置で移植をするのです。従来の移植の適応年齢は60歳ぐらいまででしたが、ミニ移植は通常70歳ぐらいまで行われています。

◇ 倉敷中央病院(倉敷市美和1の1の1、(電)086―422―0210)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年10月06日 更新)

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