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(1)痛みの悪循環 幽霊の正体見たり枯れ尾花!? 笠岡第一病院ペインクリニック内科部長 森田善仁

森田善仁内科部長

痛みの悪循環 幽霊の正体見たり枯れ尾花!?

「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という諺(ことわざ)があります。これは枯れススキを幽霊と見間違えるように、怖い怖いと思って見ると、何でもないものまでとても恐ろしいものに見えてしまうことのたとえです。別の言い方では、恐ろしいと思っていたものも、正体を知ると大したものではなかったという意味でもあります。

 この諺は痛みに対する解釈にも当てはまります。痛みを「幽霊」のように「得体のしれない恐ろしいもの」と思い込むと、痛みを過剰に怖がり警戒するようになり、さらに痛みにとらわれるという悪循環に陥りやすいと考えられます。悪循環に陥らないために大切なことは、痛みの正体(背景)を知ることです。痛みの正体が分かれば、実際にはそんなに大したことではなかった! ということもあると思います。

 あなたの痛みを正しく理解するために、まずは危険な痛みではないことを確認しましょう。とくに痛みが強い場合や長引く場合には、レッドフラッグという四つのサイン、感染・骨折・腫瘍(がん)・神経脱落所見(神経麻痺(まひ))がないことを医師に確認してもらうことをお勧めします。そして、あなたの痛みがどこからきているのかを知ることもよいと思います。

 器質的な痛みの病態には炎症の痛みと神経の痛みがあり、これらの痛みには心の痛みが影響します。炎症の痛みとは骨折やけがなどによる痛みのこと、神経の痛みは神経の断線や混線によって生じる神経痛のこと、そして、心の痛みとは、心理的社会的ストレスなどがかかることにより、本来人に備わっている「痛みを抑える力」の働きが弱くなり、痛みを強く感じることです。

 それでは、なぜ痛みが長引くのでしょうか? 今の医学の知識では炎症の痛みと神経の痛みが合わさって、さらにその合わさった痛みに心の痛みが加わって悪影響を及ぼすから、痛みがこじれて「やっかい痛み」になっていると考えられています。

 次に、やっかいな痛みの治療について説明します。ペインクリニックの診療で最も重要なのは、しっかり問診することです。もちろん検査も大切ですが、どうして問診かと言いますと、痛みのことは患者さんから教えてもらわなければ分かりようがないからです。

 一口に痛みと言ってもその内容は千差万別であり、痛みそのもの(炎症や神経の痛みのこと)がどの程度強いのか、どれくらい苦しくてツライのか、日常生活のどういった場面で困っているのかなどは、問診をして初めて評価できることです。そしてこの評価をもとに治療法を選択します。例えば、炎症や神経の痛みには神経ブロックや薬を使います。同時に苦悩やストレスには薬や心理療法を行い、運動療法を併用して心理的・身体的な健康を回復するというように、患者さん一人一人の病態に合わせてオーダーメードで治療を考えます。

 このようなオーダーメード治療のことを多面的アプローチと言います。これは医師ばかりではなく、理学療法士や心理士などの専門職と連携して、チームで治療にあたる方法です。当院には慢性痛サポートチームという専門チームがありますので、長引く痛みでお困りの方はぜひご相談ください。

◇ 笠岡第一病院((電)0865-67-0211)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年10月20日 更新)

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