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若者に広まる炎症性腸疾患 岡山県内でも急増 根治難しいが治療法進歩

岡山県内の認定患者数(グラフ)

原因不明の炎症性腸疾患について「治療方法は進歩しており、将来は克服できるだろう」と語る春間教授

 大腸や小腸の粘膜に慢性の炎症、潰瘍(かいよう)を引き起こす原因不明の炎症性腸疾患が若い世代を中心に広まっている。中でも、国の特定疾患(難病)に指定されている潰瘍性大腸炎の認定患者は2005年度末現在、岡山県内で1474人と最近10年でほぼ倍増。同様に国特定疾患のクローン病は473人と7割増えた。今のところ根治が難しく、長く付き合わざるをえないが、この病気に詳しい川崎医大の春間賢教授(食道・胃腸内科)は「治療方法は進歩しており、将来は必ず克服できるだろう」と語っている。

 潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜に発疹(ほっしん)の一種、びらんや潰瘍ができる病気で、長引く下痢が初期症状。出血を伴うことが多く、激しい腹痛と頻繁な排便を起こす。重くなると発熱、貧血など全身への症状が生じる。

 クローン病も腹痛と下痢が初期症状。口から肛門まで消化管のどこにでも炎症や潰瘍が起こりえるが、特に小腸の末端部が多い。「肛門から離れているので下血は少ないが、栄養の吸収障害が問題。体重の減る患者が多い」と春間教授。肛門病変や腸管が狭くなったり、潰瘍が深くなり化膿(かのう)による膿瘍をつくるなどの合併症を伴うこともある。

 発症のピークは潰瘍性大腸炎が二十代、クローン病は十、二十代。ただ、「七十代、八十代で起きることもある」(春間教授)という。世界的にみると、欧米の発症率が高く、わが国の患者増加も食生活などの欧米化が影響しているといわれる。

 治療は、治療薬のサラゾスルファピリジン(商品名・サラゾピリン)、メサラジン(同・ペンタサ)やステロイド剤で炎症を抑える薬物療法が中心。クローン病は、病気の原因とみられる脂肪をほとんど含まない成分栄養剤などを食事代わりに取り、腸を安静にする栄養療法を併せて行う。こうした内科治療で病気が治るものもあるが、症状の再現を繰り返し慢性化することも多い。

 大量出血や腸閉塞(へいそく)を起こすなど重症の場合は手術が必要。潰瘍性大腸炎は大腸をすべて摘出するのが基本だが、「以前のように人工肛門にせず、肛門を温存するのが最近の主流」(同)という。

 近年広まった治療法が潰瘍性大腸炎の血球成分除去療法。人工透析のように血液を一度体外に出し、血液中から異常に活性化した白血球を取り除く。薬物療法で効果のない場合などに用いる。

 クローン病では、新薬のインフリキシマブ(商品名・レミケード)の効果が期待されるという。「治療の研究が進んでいる欧米で盛んに使われており、他の新しい薬や骨髄移植なども試みられている」と春間教授。「時間はかかるが必ず病勢は衰えてくるので、病気をよく理解し上手に付き合ってほしい」と患者に呼び掛けている。

 若い患者にとっては進学や就職も大きな問題。「患者の大半はやむをえず病気を隠し就職している」と、岡山県内の潰瘍性大腸炎とクローン病の患者会「岡山えーでー会」事務局の池田豊紀さん(50)。自身も二十三歳でクローン病と診断され三十年近く闘病を続けており、長期入院で仕事を失ったり、就職がままならなかった経験がある。

 その上で「病気のため引きこもりがちになる若者もいる。治療とともに精神的ケアを充実してほしい」と支援を望んでいる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年07月15日 更新)

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