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骨粗しょう症の新しい治療 岡山旭東病院整形外科部長 平野浩司

ひらの・こうじ 川崎医科大卒。同付属病院、福井県・国立鯖江病院などを経て2000年から岡山旭東病院勤務。11年から現職。

 年齢を重ねていくうちに骨の全体量が減り、構造がスカスカになる骨粗しょう症という病態があります。以前は高齢者だけがかかると思われていましたが、最近では意外に若い年齢層から発症することがわかってきました。骨粗しょう症は、ただ単に骨がもろくなるだけでなく、それがもとで弱い外力でも骨折を起こしたり、脊椎や関節が変形したりして、日常生活に影響を及ぼし、最悪寝たきりの状態になるなど著しいQOL(生活の質)の低下に至る場合もあります。これを予防し、治療するにはどうすれば良いのでしょうか。

予防

 骨粗しょう症の予防には、食事、運動と日光浴があります。食事は骨密度を増加させる栄養素を積極的に摂(と)るようにしましょう。カルシウムは1日あたり、約700mgの摂取が理想とされていて、牛乳ならコップ3杯、豆腐なら2丁が目安となります。カルシウムの吸収を助けるビタミンD、Kも一緒に摂ることが大切で、キノコ類や豆類、ホウレンソウなどと一緒に食べると良いでしょう。

 運動は骨にカルシウムを蓄えるために「骨に体重をかける」ことが大事です。特に有効な運動は、ウォーキング、ジョギング、エアロビクスなどですが、これらが困難な場合は日常生活の中で階段の上り下りや散歩などを取り入れるだけでもOKです。逆に水泳など浮力で体重のかかりが減免される運動は骨密度を低下させる傾向があることが報告されています。また日光浴も骨粗しょう症の予防に効果があります。1日に15分―20分、日光を浴びるようにすると、皮下でビタミンDが活性化し、食事で摂ったカルシウムの腸管からの吸収が促進されるからです。

診断

 図1にあるチェック項目を試してみてください。10個以上あてはまる項目がある場合は骨密度測定を受け、骨粗しょう症の有無を検査するのが望ましいです。骨密度の測定方法はいくつかありますが、エネルギー量の異なる2種類のエックス線をあてて骨密度を測定するDXA法が標準測定法になります。これで腰椎と足の付け根の骨密度を計測し、20―44歳の若年成人の骨密度の平均値(YAM)を100とした場合、その70%を下回る値であれば骨粗しょう症と診断され、薬物治療が必要になります。また足の付け根の骨や背骨(胸椎・腰椎)に軽い衝撃で折れる脆弱(ぜいじゃく)性骨折が生じた人も、骨粗しょう症があるものとみなされ、薬物治療を開始した方がよいと報告されています。

薬物治療

 骨粗しょう症の治療薬は、作用機序から大きく三つに分けられます(図2)。

(1)骨の破壊(骨が溶ける)を抑える薬

(2)骨の形成(骨を作る)を助ける薬

(3)吸収と形成の骨代謝を調節する薬

 その中でも現在、骨粗しょう症治療の第一選択薬なのが(1)に属するビスホスホネート剤です。週1回(月1回など、異なる用法のものもありますが)起床時の内服を続ければ、2年ほどで効果がえられる薬剤です。剤形も錠剤の他に、ゼリー状の内服薬や注射薬も販売されています。ただし5年以上継続内服すると、非定型的大腿骨骨折や顎骨壊死などを生じる割合が3―4倍増えるとの報告があるため、その頃に一時休薬が必要になることがあります。

 この薬剤の他にも女性の閉経後骨粗しょう症には(1)に属するSERМという女性ホルモン受容体を調節刺激して骨量を増やすというものもあります。また1種類だけではなく図2にある薬の「組み合わせ」で治療する場合もあります。

骨折の危険性の高い骨粗しょう症に対して

 高齢者の中には治療薬を内服しても背骨を何カ所も骨折する方もいます。このようなドミノ倒しのように骨折される人には(2)に属するテリパラチドが適応となることがあります。テリパラチドは副甲状腺ホルモン製剤で、これを毎日、あるいは週1回、皮下に注射することで骨芽細胞に働きかけ、骨形成を促進します。非常によく効果がでる薬なのですが、欠点として投与量を多くしたり投与期間を長くしたりすると、それに応じて骨腫瘍の発生確率が高くなるという点があるため、テリパラチド製剤はずっと使い続けるのではなく、生涯で24カ月までと投与期間が決められています。

 また、昨年発売になり「半年に1回注射するだけの骨粗しょう症治療薬」と話題になったのが、デノスマブです。作用機序は破骨細胞の働きを抑えることによって骨が溶け出していく過程が遮断され、骨粗しょう症を治療するという(1)に属する薬です。6カ月に1回の皮下注射で済むので、病院への通院が困難な高齢者などが良い適応になるでしょう。

 ただし理解していただきたいのは「年2回の注射で骨粗しょう症が完全に治ってしまうわけではない」ということです。これからの高齢化社会を踏まえて、高齢者に5―10年単位で使用することも考えて導入されています。また副作用として低カルシウム血症があり、その予防にカルシウムやビタミン製剤は「ほぼ毎日」服用しないといけない、などの点もありますが、有用な治療薬です。

 結局、骨粗しょう症の治療は、どの薬剤を選択しても日々の治療努力の積み重ねということになりますね。どの治療薬を選択するかは、かかりつけ医によく相談してから治療を開始することにしましょう。

 最後に、骨粗しょう症の研究については、我が国にはA―TOP研究会という医師主導型の臨床研究会があります。実地医療の場で、従来の治験などでは取得されなかった安全性や有効性についての情報を得て報告研究する会です。このたゆまぬ努力の結果、骨粗しょう症にはまた次世代の新しい有効で安全な治療薬が出てくるものと期待されます。骨粗しょう症は誰もがなりえるものです。医療者のみならず、患者さんや家族も皆で手を取り合って予防と治療に努めていきましょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年11月03日 更新)

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