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肺区域移植の2歳男児、笑顔で退院 岡山大病院、世界初成功

大藤チーフ(左)らの見送りを受け、母親に抱かれて退院する男児=6日午前9時43分、岡山大病院

 岡山大病院(岡山市北区鹿田町)で、30代の母親から左肺の一部を、機能する最小単位の「区域」に分割し、両肺として移す「生体肺区域移植手術」を受けた埼玉県の男児(2)が6日、退院した。病院によると、この手法では世界初の成功例で、男児は国内最年少の肺移植患者となった。

 同日午前9時半ごろ、迎えに来た父親らに付き添われ、母親に抱かれて病院の玄関に出てきた男児は、見送りの医師や看護師らに元気に手を振り、退院した。

 男児は今年5月、肺が動かなくなる重い病気「特発性間質性肺炎」を発症。8月中旬には人工呼吸器を装着しても酸欠になるなど病状が悪化した。移植以外に救命の道はなく、8月31日、岡山大病院で約11時間の手術を受けた。

 通常の生体肺移植では、左右いずれかの肺の下部にある下葉という部分を使うが、男児には大き過ぎたため、左肺の下葉をより小さな「区域」に切り分けて移植した。術後の経過は順調で、9月中旬には人工呼吸器が外せるまでに回復。大きな声を出したり、自分で食事を取れるようになった。

 執刀した呼吸器外科の大藤剛宏肺移植チーフによると、定期的な診察や免疫抑制剤を飲み続ける必要はあるが、約1年後にはプールに入ったり、運動もできるようになるという。

 2010年の改正臓器移植法全面施行で15歳未満も脳死臓器提供が可能になったが、乳幼児のドナー(臓器提供者)が現れるケースはほとんどなく、移植機会は極めて少ないのが現状だ。大藤チーフは「移植した肺はしっかり機能しており、体が成長しても再移植の必要はないだろう。同じような病気で苦しむ乳幼児に、生きるチャンスを示すことができた」と話した。

 同病院は2013年7月にも、当時として最年少の3歳男児に母親の肺の一部を片方の肺に移す生体移植を成功させている。

「未来を与えてくれた」 母親安堵

 「毎日、笑顔が見られて本当にうれしい。小さな体でよく頑張ってくれた」。退院を前にした5日、病室で代表取材に応じた男児の母親はこう語り、安堵(あんど)の表情を見せた。

 今年5月の発病後、病状は急速に悪化し、3カ月後には意識のない状態にまで陥った。「発病してからずっと現実として受け入れることができなかった」

 そんな中、岡山大病院の大藤剛宏肺移植チーフから示された救命法は世界でも前例のない手術だった。「(子どもが生きられる)可能性があるならお願いします」。自身の体にもメスを入れなければならなかったが、迷いはなかった。

 大手術を乗り越えて2カ月余り。男児は劇的に回復した。車の乗り物に乗って遊んだり、敷地内のカフェにも一緒に行けるようになった。

 男児の手にはいつもウルトラマンの人形。地元の病院から握りしめてきた。闘病生活を一緒に過ごしたお気に入りで無邪気に遊ぶわが子の姿を見詰めながら、母親は「同年代の子どもたちと同じように、友達や兄と遊ばせたり、幼稚園に行かせたい」と話した。

 ようやく取り戻せそうな“普通の生活”。「手術が私たちに未来を与えてくれた」。母親に笑みがこぼれた。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年11月06日 更新)

タグ: 岡山大学病院

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