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(11)精神疾患 慈圭病院 堀井茂男院長 森田療法と内観 多くの疾患に有効

ほりい・しげお 香川県立高松高、岡山大医学部卒。国立病院機構・久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)、岡山大病院を経て、1986年、慈圭病院へ。2007年4月から院長。岡山大臨床教授、日本内観学会理事長、日本精神科病院協会常務理事、日本アルコール関連問題学会副理事長、岡山いのちの電話協会会長など務める。日本森田療法学会認定医、日本精神神経学会専門医・指導医。67歳。

 ―心の病気にはどんな種類がありますか。

 堀井 ストレスなどが原因で起こる神経症性障害(不安障害や強迫性障害)、脳内の神経伝達物質であるセロトニン、ドーパミンなどのバランスが崩れることが原因と考えられている気分障害(うつや、一般的にそううつ病と言われる双極性障害)、統合失調症、脳神経の障害・変成や萎縮が原因となる精神障害や認知症などがあります。

 ―一般外来のほか、アルコール外来も担当されています。

 堀井 うつ病患者の約1割はアルコール依存症で、二つの病気は深い関連があります。アルコール乱用による国内の社会的損失は1年間で約4兆1500億円と、酒税収入の3倍に上るという調査もあり、影響は深刻です。アルコール依存症は誰にでも起こり得る病気です。当院では入院患者に対してリハビリプログラムをつくり、断酒をサポートしています。

 ―診断、治療の流れを教えてください。

 堀井 正しく診断できるよう、初診時は30分以上かけ、原則として本人と家族から個別に話を聞きます。患者・家族の気持ちの受容を第一義とし、薬物治療についても副作用などをきちんと説明します。認知症など脳神経の障害が疑われる場合は、CT、MRI、脳波検査などをし確定診断をします。

 ―診断が付きにくい場合はありますか。

 堀井 双極性障害は、うつ病と見分けが付きにくいことがあります。うつの状態から発症することが多いことや軽いそう状態なら判別が難しいためです。うつ病は抗うつ薬、双極性障害は気分調整薬と、処方する薬を吟味する必要があり、診断には細心の注意を払います。

 ―心の治療は、他の疾患以上に患者に寄り添う視点が必要でしょうね。

 堀井 うつや統合失調症は一進一退を繰り返しながら、多くは快方に向かいます。ただ、中には再発を繰り返したり根治が難しいことがあります。でも、うつや幻覚・妄想などの悩みを抱えながらも、患者さんが自力で困難を乗り越え日常生活を送ることができるように支えていきます。

 ―薬物療法と併用し、森田療法、内観療法という二つの精神療法を取り入れています。

 堀井 森田療法は、入院患者に一人きりで病院内の部屋にこもり1週間ほど過ごしてもらいます。不安でどきどきしたりする日々を過ごしますが、やがて慣れ、「そのままにしておいても大丈夫」だと実感します。次に、肉体労働的な作業をしても大丈夫という段階を経て、日常生活を送ってもらいながら3カ月程度かけて自信を取り戻し、社会復帰してもらうのです。

 ―内観療法とは。

 堀井 入院で行う場合、集中内観と言い、畳に座って周囲をびょうぶで囲み、父母や配偶者らに対して、してもらったこと、して返したこと、迷惑を掛けたことを年代別に思い返してもらいます。可能な限り具体的な場面を思い出してもらい報告してもらいます。それを1週間続けます。

 ―患者にどんな変化が表れますか。

 堀井 運動会や遠足の時にお母さんが作ってくれたお弁当の中身とか、病気で寝込んだときに家族が介抱してくれたこととか、時間がたつごとに記憶がよみがえります。その結果、自分を客観視でき、情緒が安定したり、責任感や意欲が向上します。自分がいろんな人のお世話になってきたということが分かり、対人関係も好転します。悩みに対しても、自分なりの解決策を見いだすことができるようになります。

 ―どんな疾患に効果が期待できますか。

 堀井 アルコール依存症、うつ病、統合失調症、パニック障害、強迫性障害など、多くの疾患に有効です。一般的には、人間関係のストレスがある場合は内観がより効果的といえます。

 ―二つの療法は入院しないとできないのでしょうか。

 堀井 二つを併用あるいは統合する形で、外来にも導入しています。内観は、患者さんに自宅で取り組んでもらい、記憶などを記録してもらいます。入院でも外来でも、治療に臨む心構えとして「焦らず」「慌てず」「諦めず」「あるがままに」「ありがとう」の五つの気持ちを持ってもらうことが大事。私はこれを「五つの『あ』療法」と言っており、常に患者に話しています。

 ―薬物療法、精神療法以外にも治療法がありますか。

 堀井 当院では、重度の精神病、うつ病の方に対して、修正型電気けいれん療法の設備があります。頭部に電気刺激を加えて脳の機能を改善するのですが、全身麻酔をかけ筋弛(し)緩(かん)薬を使うので、実際にはけいれんは起こらず、安全性も立証されています。



 慈圭病院(岡山市南区浦安本町100の2、(電話)086―262―1191)。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年11月17日 更新)

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