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(2)心と痛み 心と体からのメッセージ 笠岡第一病院ペインクリニック内科部長 森田善仁

森田善仁部長

【参考・引用】坂野雄二監修、鈴木伸一・神村栄一著「実践家のための認知行動療法テクニックガイド」

心と痛み 心と体からのメッセージ

 痛みは不安、抑うつ、怒りなどの嫌な気分を引き起こしやすいものですし、そのような嫌な気分の状態がさらに痛みを強く感じさせることもあります。このように、痛みには“体の痛み=感覚”と“心の痛み=感情”という二面性があり、これらは強く結びついています。そこで今回は、“心”という側面から痛みについて考えていきます。

 心と体の結びつきについては、東洋医学に、心と身体を一体としてとらえる“心身一如”という思想があるように、私たち日本人は古くから経験的に知っている現象だと思います。そして、最近の知見からも、痛み刺激の強さ(身体的ストレス)に反応する脳の領域(痛み関連脳領域)と嫌な気分(心理的ストレス)に関与する脳領域とはオーバーラップしていることがわかってきています。

 それでは、「心」はどのようなメカニズムで痛みに影響するのでしょうか。痛みのメカニズムに関する研究は、1965年にMelzackとWallが提唱した脊髄に痛みをコントロールするゲートが存在するという“ゲート・コントロール理論”に端を発しています。現在では、痛みの信号が末梢(まっしょう)神経・脊髄を通って脳に到達し痛みとして認識されると、脳からの“下降性疼痛制御系”により脊髄のゲートを開けたり閉めたりして、脳に到達する痛みの信号を調節することがわかっています。そして、嫌な気分はゲートを大きく開き、より多くの痛みの信号が通じるようになり、痛みを強く感じるというわけです。そうだとすれば、もし嫌な気分をコントロールできれば、痛みがいくらか楽になるかもしれませんね。それでは、嫌な気分はコントロールできるものでしょうか?

 例えば、「仕事でミスをしたという出来事があって、嫌な気分になり落ちこむ」という一連の流れを考えてみます。この場合、仕事でミスをしたという事実は変えることはできませんが、「この経験を活かして明日からも頑張ろう」などのように、「とらえ方」によっては嫌な気分を変化させることができるはずです。

 嫌な気分にさせるとらえ方にはいくつかのパターンがありますので、その対処法の例と一緒に表で紹介します。ただし、マイナス思考をプラス思考に変えなければならないということでもありません。間違ったとらえ方が存在するわけでもありません。ただ、出来事に対するとらえ方が極端になり過ぎて自分自身が苦しくなってしまった場合には、試しに切り替え練習を行ってみてください。

 このような、出来事に対するとらえ方(認知)に注目して、嫌な気分を和らげたり、行動を変化させたりする治療法を認知行動療法といいます。近年、慢性の痛みに対する治療として、痛みの専門医による評価・診断・治療とともに、心理士による認知行動療法などの心理的アプローチを組み合わせる多面的アプローチが普及しつつあります。

 「痛い」ということは、体と心からの何らかの不調のサインであり、大切なメッセージだと思います。よりよく生きていくために、体だけでなく、心からのメッセージも大切にしてみませんか?

◇ 笠岡第一病院((電)0865-67-0211)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年11月17日 更新)

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