文字 

(1)その役割 新見市国民健康保険湯川診療所・渡辺病院内科 藤井修一

ふじい・しゅういち 井原高、自治医大卒。鏡野町国保病院、上斎原診療所、川崎医大脳卒中科を経て2012年から現職。総合内科専門医、脳卒中専門医、日本プライマリ・ケア連合学会認定医・指導医。

出典「21世紀プライマリ・ケア序説」(伴信太郎著)

 お住まいの地域で安心できる医療を受けられていますか?

 いま、地域社会は少子化・高齢化という人口構造の変化からさまざまな問題が起こっています。その一つが「地域医療」です。私は中山間地域の病院と診療所で働いている立場から、「地域医療」を考えてみたいと思います。

 診療所での出来事。月1回訪問診療を行っているAさんのご家庭に、来週訪問する予定であることを看護師が電話しました。その時ここ数日、本人の調子がおかしいとAさんの妻が訴えます。どこがおかしいか、電話でははっきりわかりません。予定を早め、Aさんのお宅へ行ってみました。一見するといつもと変わりないですが、診察すると体内の酸素状態は低く、危険な状態でした。

 すぐに勤務している病院に搬送し、入院治療を依頼しました。診療所が終わってから病院に帰り、患者さんの血液検査や画像の結果をみて、あらためて肺炎と診断し、翌日以降の治療方針を立てました。

 入院中、Aさんの妻がひとりで暮らせるか家族に確認し、いつもよりも頻繁に連絡を取るようにしてもらいます。本人が回復してくれば今後肺炎を起こさない方法を考え、食事の作り方などを妻に説明します。介護サービスはいままでデイサービスのみだったので新たにホームヘルパーを頼み、自宅を改修してより生活しやすいように提案します。妻はいままでに医療機関にかかっていなかったようですが、認知症が疑われ、今後経過をみていきたいため保健師に介入を依頼しました。

 このように、ある出来事をきっかけに患者さんの治療だけではなく、介護や生活、さらに妻の健康問題など家族への対応、また地域における医療・介護の連携の促進などを行っています。この医療だけではなく福祉や保健も含めた医療活動は「プライマリ・ケア(一次医療)」と呼ばれ、地域で医師が担う役割です。「地域医療」はプライマリ・ケアを行う場として、地域を基盤とし活動することを意識した言葉です。

 医療はローカル(局地的)に提供されるものであり、それぞれの地域で条件は大きく異なります。都市部では特定の疾患(心筋梗塞や脳卒中など)の専門的な連携を行う必要がありますし、離島や中山間地域では専門病院まで時間がかかることから、まずは地域の病院で対応する必要があります。その地域の現状を理解した上で、どうやって目の前の患者さんに対処するのか、そしてさらに今後よりよい医療を提供していくためにどういった点を改善すればよいのか、日々奮闘しています。

 医師のみでできることは限られており、看護師、ソーシャルワーカーなど医療職をはじめ、行政の担当者、また地区の住民とも協力して活動を進めています。本来医療は黒子の役割であり、地域で生きる人たちが主役であると思います。主役である住民のみなさんが活躍できるために、安心できる医療を構築していきたいと思っています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年11月17日 更新)

タグ: 医療・話題

ページトップへ

ページトップへ