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(2)発症と全身との関わり 岡山大学病院歯周科講師 山本直史

やまもと・ただし 兵庫県立長田高、岡山大歯学部卒、同大学院歯学研究科(博士課程)修了。日本歯周病学会認定医、インフェクションコントロールドクター、歯科医師臨床研修指導歯科医。

発症と全身との関わり

 「歯磨きをしないと、むし歯菌が出す酸で虫歯になる」と教わった方は多いことでしょう。では、歯周病についてはいかがでしょうか? 歯周病になると歯茎が腫れて出血するというイメージが強いですが、より深刻な問題は、歯を支える骨が溶けることです。では、歯周病菌が酸を出して骨を溶かすのでしょうか? 今回は、歯周病がどのように発症し、悪化するのか。さらに歯周病と全身状態との関わりについてご紹介します。キーワードは(1)歯周病原菌(2)体の抵抗力(免疫力)そして(3)口腔(こうくう)と全身の変化―です。

 歯周病の原因は細菌(歯周病原菌)です。つまり、歯周病は細菌感染症であり、病状はほとんどの場合ゆっくりと進行します。歯周病原菌は歯周ポケット(歯と歯茎の隙間)に主に定着します。この狭い空間には、歯周病の進行に伴って、酸素を必要としない特異な細菌種が増殖しますが、その菌種には個人差があり、全容はいまだ明らかではありません。

 歯周ポケット内にはさまざまな細菌が常に出入りしますが、体の免疫細胞によって炎症が起きないようバランスが保たれています。ところが、不潔な状態が続き、歯垢(しこう)(プラーク)の付着、歯周病原菌の定着(バイオフィルムの形成)が増えると、免疫細胞が活発化し炎症を起こすさまざまな蛋白(たんぱく)(起炎物質)を産生します。つまり、歯周病とは体の免疫反応の結果であり(図)、その炎症の程度には個人差があります。まれに、わずかなプラークによって重度な歯周病になる方もおられます(以後の連載参照)。洗口剤などによって歯周ポケット内を無菌状態にすることは不可能であり、時に、過度な殺菌作用は歯の周りの組織にダメージを与え、組織が産生する起炎物質によって炎症を助長する場合があります。ですから、歯周病治療には、免疫反応を確認しながらの原因除去(バイオフィルムの除去)が必要です。免疫反応が過剰に続き炎症が深部に波及すると骨を作る細胞のバランスが崩れて骨が溶け、重症化すると歯が脱落することもあります。

 ライフステージごとのさまざまなイベントによって、人の免疫力は変動します(第1回の表参照)。健康な時にバランスが保たれていた口腔の状態は、体調の変化による免疫力の低下によって、悪化する場合があります。口腔内の細菌の種類・量は、成長・老化、生活習慣の変化に伴って変動し、その変動には個人差があります。つまり、個々のライフステージごとの免疫力の変化に合わせた感染のコントロールが、口腔の健康維持には必要なのです。

 また、歯周病原菌は口腔咽頭や末梢(まっしょう)血管を介して全身を巡ります。通常は全身の免疫細胞によって健康な状態を保つことができますが、長期間で大量のステロイド治療、糖尿病、がん治療、そして老化などによって免疫力が下がると、発熱や全身状態の悪化につながることがあります。また、妊婦、誤嚥(ごえん)しやすい高齢者、動脈硬化や先天性心疾患を持つ方も注意が必要です。これらの詳細は、第6回以降にご紹介します。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年11月17日 更新)

タグ: 岡山大学病院

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