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(3)ライフステージと免疫力 岡山大病院歯周科講師 大森一弘

大森一弘講師

 

 私たちの身体(からだ)は、細菌やウイルスの感染に対して、皮膚や粘膜といった上皮組織と呼ばれる物理的なバリアーによって強固に守られています。また、物理的バリアーを突破して細菌やウイルスが体内に侵入しても、白血球に代表される免疫担当細胞(宿主防御細胞)が活性化されることによって、異物を捕らえて体外へ排除する能力、すなわち「免疫力」を持っています。免疫は、私たちが健康な生活を営む上でとても重要な働きを担っています。

 若い時は、風邪に罹(かか)っても免疫力が高いのですぐに完治します。しかし、中年期を迎えると糖尿病に代表される生活習慣病に罹る割合が増え、また免疫力は徐々に低下していきます。さらに、高齢期を迎えると内科疾患に加え、加齢に伴って免疫力がさらに低下していきます。つまり、私たちの身体は、年を重ねるにつれて免疫力が低下し、「病気になりやすい体質」へと変化していくのが一般的です。

 歯周病は、歯垢(しこう)や歯石といった形で口の中に常在する細菌が引き起こす感染症です。口の中には、身体の中でも1、2位を争う量の多量の細菌が生息しています。免疫力を維持できている若い時は、きちんと歯磨きをせずに細菌が感染し続けたとしても、歯周病が重症化することはまれです。しかし、免疫力が低下し始める中年から高齢期においては話が違ってきます。

 日々の歯磨きを怠ってしまうと、歯周病は重度に進行してしまい、歯を失う確率がぐんと高くなります。すなわち、口の健康を維持する上においても、「ライフステージに応じた免疫力」を意識しながら対応することがとても大事なのです。

 私たちの身体は、年を重ねるにつれて歯周病をはじめとした病気を発症するリスクが高くなります。一方、健康な生活を営む上で、口から食事(栄養)を摂(と)ることはとても大切です。歯周病が重度に進行して歯が動いたり無くなったりすると、口から栄養がしっかり摂れなくなり、その結果として身体は衰弱していきます。そして免疫力も低下してしまい、感染するリスクが一層高くなります。このような負のサイクル()に陥る前に、若い時期から口の健康に意識して対応していくことが大切です。ヒトは生まれた時から年を重ねていきます。口の健康を通して、ライフステージに応じた免疫力を意識しながら日々の生活を過ごしませんか。

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おおもり・かずひろ
岡山一宮高、岡山大歯学部卒。同大学院医歯学総合研究科修了。米ボストン大歯学部博士研究員、岡山大大学院医歯薬学総合研究科助教を経て2014年から現職。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年12月01日 更新)

タグ: 健康岡山大学病院

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