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(15)川崎医科大学病院 腹腔鏡、乳房再建、放射線…がん治療充実

乳がん患者の乳房再建手術は乳房切除後、直ちに行う。乳腺甲状腺外科の紅林教授(左)が形成外科の稲川教授に手術の経過を報告する

子宮体がんの腹腔鏡手術を行う塩田教授

(上段左から)園尾博司院長、平塚純一教授(下段左から)吉田浩司准教授、長谷川健二郎准教授

 高度医療を担う特定機能病院として、長年がん治療に力を注いでいるが、近年はその充実ぶりがひときわ目を引く。専門医を増員したほか、異なる診療科による連携や、さまざまな職種によるきめ細かいチーム医療を推し進めている。

 手術では、患者の体への負担が少なく、医師には高度な技量が求められる腹腔(ふくくう)鏡手術を積極的に行う。

 平井敏弘教授(胃、食道)、中田昌男教授(肺)、中村雅史教授(肝胆膵(すい))、永井敦教授(前立腺)らが実施。昨年9月には、産婦人科に塩田充教授が就任し、子宮体がんも腹腔鏡で対応できるようになった。塩田教授は、子宮内膜症や子宮筋腫などで約5千例の腹腔鏡手術を手掛けたエキスパートだ。

 治療効果を上げるためには、がんの早期発見が何より大切。体の奥深くにあるためとりわけ発見が難しい胆道・膵臓がんの早期発見を狙いに、昨年12月に開設したのが胆膵インターベンション科。

 膵臓がんの場合、ほとんどは進行した状態で発見されるが、1センチ以下の初期の段階で発見できれば長期生存が期待できる。その切り札として、胆管・膵管撮影装置(MRCP)と高性能の超音波内視鏡を新たに導入した。

 問題は、自覚症状がない患者に検査をいかに受けてもらうか。膵臓がんの発症リスク解明に携わってきた責任者の吉田浩司准教授は「のう胞や糖尿病などの危険因子がある人は注意が必要」と話す。

 QOL(生活の質)を重視した医療にも力を入れる。その代表例が乳がん治療だ。

 乳がんで乳房を切除した患者に対し、シリコンで人工乳房をつくる乳房再建手術は、乳腺甲状腺外科の紅林淳一教授、形成外科の稲川喜一教授らがタッグを組んで実施。

 その手術は昨年、川崎医大病院のように乳腺と形成外科の専門医がいる施設に限り保険適用が認められた。園尾博司院長が初代理事長を務めた「日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会」を中心とした成果で、約100万円かかっていた自己負担は8~15万円になった。

 術後に腕や足がむくむリンパ浮腫に対しては今年8月、全国でも珍しい「リンパ浮腫リエゾン治療外来」を開設した。

 リンパ浮腫の発生率は乳がんで約20%、子宮・卵巣がんで5~20%で難治性である。整形外科の長谷川健二郎准教授が、直径0・3~0・5ミリのリンパ管と静脈をつなぐリンパ管静脈吻合(ふんごう)術で成果を得ている。「この手術ができる施設は全国でも限られており、多くの患者さんのお役に立ちたい」と力を込める。

 放射線治療も平塚純一教授を中心に優れた実績を誇る。

 前立腺に針を刺し放射線を当てる高線量率組織内照射は国内最多の1100例を数える。

 頭頸(とうけい)部がんと皮膚がんを対象に、ホウ素化合物をがん細胞に取り込ませ、研究用原子炉で発生させた中性子線を照射し、そこで発生する強力な放射線(アルファ線)を利用し、がん細胞だけを破壊する「ホウ素中性子捕捉療法」を実践。今年4月からは、原子炉の代わりに加速器で発生させた中性子線を用いる世界初の臨床試験(第I相)に取り組んでいる。

 平塚教授は「機能面、美容面を損なわずに治療できれば患者さんのQOLは保持される。加速器での効果が立証できれば、病院にも設置が可能となり、メリットは大きい」と言う。

 患者サービスも充実させた。入退院サポートセンターを8月開設。専属の看護師らが病気や入院計画、医療費や退院後の外来、療養などの相談に乗る体制を整えた。

 2011年春まで約10年をかけ、病院を順次改修。昨年は開院40周年を迎えた。多職種の職員が定期的に集い「良き医療人とは」のテーマで議論を深める「川崎塾」も3年前から開いている。

 園尾院長は「医師、看護師はもちろん、患者さんの目に触れないところで一生懸命、がん診療を支えてくれている全ての職員に感謝したい。最先端の技術を駆使しながら、温かい医療を実践する」と話している。

◇ 川崎医科大学病院((電)086―462―1111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年12月01日 更新)

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