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(11)不整脈治療 岡山ハートクリニック 東矢俊一医師

カテーテルアブレーションについて説明する東矢医師

手術前に画像をチェックする(画像加工をしています)

最新法施術歴250例、根治めざし日々挑む

 術中の心臓内部を前面や側面から映したレントゲン映像、最新の3Dマッピングシステムで得た画像。多数の液晶画面を見つめながら、両手を微妙に動かす。レントゲン画面に映るカテーテルの先端が、手の動きに合わせて時に素早く、時に手探りするようにゆっくりと動く。

 心電図の波形にも定期的に視線を走らせる。不整脈の一種・心房細動のカテーテルアブレーション(心筋焼灼(しょしゃく)術)。最新の治療法だが、通常の外科手術のように患部を直接見ながら施術できるわけではない。

 3Dマッピングシステムは多数のCT画像から作った心臓の立体映像を事前に準備。患者の背中に電極を貼り、カーナビの要領で術中、立体映像中にカテーテルの位置が示される。しかし、過去の画像に基づいた立体映像は患者の体内にある心臓の「今」の姿ではない。「あっ、カテーテルの先端が心臓の壁に当たったな」。手先に伝わるかすかな感触と多くの情報を総合し、頭の中に心臓内部のイメージを描きながら、慎重に治療を進めていく。

 心臓は右心房にある「洞結節」が出す指令により、規則正しく動いている。ところが、何かの要因で余分な電気の発生源や通り道ができ、拍動のリズムが乱れるのが不整脈だ。この患者の場合、肺静脈から発生する余分な電気信号が悪さをしている。特殊な症例ではない。肺静脈の入り口付近を円周状に2カ所、カテーテルの先から出る高周波で焼灼してやれば電気信号が伝わるのを止められ、不整脈は治るはずだ。

     ◇

 従来、不整脈に対しては薬物治療で症状を抑えるしかなかった。十数年前から始まったカテーテルアブレーションによって初めて、根治が可能になった。歴史はまだ浅く、発展途上であるだけに技術と知識を要する。日本循環器学会のガイドラインには、年間50例以上の治療を行う施設での施行が望ましいと記されている。岡山県内でも不整脈にこの治療を実施している病院は岡山ハートクリニックを含め、まだ五指で足りるほど。若手ながら東矢は治療実施歴約250例を数える。

 自治医科大出身。香川県立中央病院など同県内の病院を回り、狭心症や心筋梗塞のカテーテル治療の技術を身に付けていった。自信を持ち始めたころ、上司に「不整脈をやってみないか」といわれたのがきっかけだった。上司のつてで岡山ハートクリニックに通い、先輩医師の不整脈カテーテルアブレーションを見学した。「例えば狭心症などの治療で、血管にステント(金網状の筒)を入れれば血流が一気に回復し、効果が目に見える。その点、不整脈のカテーテルアブレーションは効果のほどが定かではない。難しく、とっつきにくい上に地味というのが最初の印象だった」

 不整脈は、単に動悸(どうき)や息切れといった症状が出るだけではない。現在中心的に扱っている心房細動では、病気の結果、血液が心房内に停滞し、血栓(血の塊)ができやすくなる。これが脳に回って血管を詰まらせると脳血栓、再び心臓に戻ってきて冠動脈を詰まらせると心筋梗塞を引き起こす。いずれも命にかかわる重大事だ。治療の意義を再認識し、徐々にアブレーションの技術習得に熱が入っていった。

 香川県内での勤務を終えた後、岡山ハートクリニックの医師となった。しかし「学ぶ立場」であることは変わらない。「先輩医師の治療に立ち会い、毎日毎日見学。文字通り背中を見て学ぶ、技術を盗むといった日々だった」

 やがて、治療の一部を手伝うようになった。最初のうちは心臓内の前後左右が分からなくなるといったこともあったが、初めて全部を任されたアブレーション治療を無難に乗り越え、徐々に経験と自信を得ていった。今は彼の方が、県外を含む多くの医師に施術を見学される側だ。

 60代の男性患者のケースが印象に残っている。肺静脈、次いで上大静脈付近と焼灼したが、症状が治まらない。左心房内の問題箇所をピンポイントで攻め、余分な電気信号を一定の回路に「追い込んで」いった。そうしておいて、一気に回路を切断。電気信号がぴたりと止まり、心電図が平坦になった。「その後、症状は一度も出ません」。男性からの手紙がうれしかった。

 半面、症状を抑えきれないケースも多い。「電気の発生源が動き回って特定できなかったり、無数にあったり…」。アブレーションで根治に道が開かれたとはいえ、まだ世界の医学界は不整脈という「大きな山」の一角を踏査したに過ぎない。分からないことだらけといっていい。

 「私たち臨床医と研究部門の医師らが力を合わせ、不整脈を解明していかなければ。しかし、新しいことに挑む毎日には、やりがいがある」。東矢の表情が引き締まり、目が輝いた。

ひがしや・しゅんいち 香川県大手前高、自治医科大医学部卒。香川県立中央病院、同県綾川町国民健康保険陶病院、直島町立診療所、高松市民病院塩江分院など経て、岡山ハートクリニック勤務。日本内科学会認定医、日本循環器学会専門医、日本プライマリーケア学会認定医。36歳。

種類と予防
高血圧など基礎疾患 早期治療を

 不整脈は、一般的に「脈が飛ぶ」と表現される期外収縮、脈が速くなる頻脈性、それにゆっくりになる徐脈性に大別できる。

 期外収縮は比較的心配のない場合が多い。頻脈性の中で、心室細動は心室の収縮が1分間に400回程度にもなって心室が痙攣(けいれん)した状態になり、血液を全身に送り出せなくなって死に至るケースが少なくない。心房細動も頻脈性に分類される。徐脈性では拍動が急に止まるタイプは通常の検査では異常が出ないことが多く、要注意。ペースメーカー治療が中心になる。

 不整脈は心臓内に余分な電気の発生源や通り道ができるために発症するが、不必要な発生源などができる要因は、高血圧や加齢と考えられている。基礎疾患となる高血圧などの病気を早期に治療しておくことが、不整脈の予防につながる。




 岡山ハートクリニック(岡山市中区竹田54の1、(電)086―271―8101)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年01月19日 更新)

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