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(6)妊娠と歯周病 岡山大大学院医歯薬学総合研究科歯周病態学分野 助教 畑中加珠

畑中加珠助教

妊娠性エプーリス(30歳、妊娠7カ月)=医療法人緑風会・ハロー歯科 滝川雅之歯科医師提供

 「妊娠すると歯が悪くなる」という話を耳にしたことがないでしょうか。昔は、「一子を得ると一歯を失う」といわれたことがありました。確かに、妊娠期には歯や歯肉の病気が起こりやすくなりますが、そこには「女性ホルモン」が大きく影響しています。

 妊婦の口の中は、悪阻(おそ)(つわり)による歯磨きの困難化、食習慣の変化や間食の増加、唾液の分泌や性状の変化、そして女性ホルモンの増加によって、虫歯を発症したり、「妊娠性歯肉炎」とよばれる歯周病を発症したりします。

 女性ホルモンの増加は、ある種の歯周病菌の増殖を助け、血管の拡張や透過性を高めます。その結果、歯肉に炎症が現れ、歯肉が赤く腫れ出血しやすくなるのです。この妊娠性歯肉炎は、細菌バイオフィルムである歯垢(しこう)(プラーク)の増加よりもホルモンの影響が大きいとされていますが、歯磨きの徹底や歯石を除去することで歯肉炎の予防や改善が図れることも経験しています。

 また時には、歯肉が腫瘤(しゅりゅう)様に膨らんでコブのようになる「妊娠性エプーリス」という病気の発症もみられます(図)。妊娠中は歯科を受診すること、特にエックス線撮影、麻酔薬の使用、そして薬物の服用などに不安を感じるものですが、可能な時期、種類、そして治療方法がありますので、早めに歯科健診を受けて適切な処置をすることをお奨めします。

 なお、女性ホルモンの増加は、妊娠だけでなく、月経周期や思春期においても生じますので、同様に歯肉の炎症が起きることがあります。

 さらに、歯周病を持つ妊婦は早産および低体重児出産のリスクが高くなることが、これまでの研究から報告されています。なんと、そのリスクは7倍ともいわれています。口の中で繁殖した歯周病菌およびそれらにより産生された炎症性の生理活性物質が血流を介して胎盤に流れ込むことにより、引き起こしているようです。

 特にプロスタグランジンという物質は、子宮の平滑筋収縮と子宮頸部(けいぶ)の拡張を引き起こし、早産・低体重児出産の要因となります。したがって、歯周病の治療を受けて口の中の細菌量を減らしておくことが大事です。

 妊娠に伴う身体の変化については、女性だけでなく、男性にも知っておいていただきたいことです。子どもの歯のもとになる芽(歯胚(しはい))は、妊娠7~10週ごろから作られ始めます。妊娠中の母体の健康は、子どもの歯の発育とも関連が深いものです。妊婦が口の健康に対して高い意識をもち、またご主人や周囲の方の正しい理解と協力が得られると、生まれてくる子どもの口の健康にもつながると思います。

 健やかに妊娠期が過ごせ、健全な出産に導けるよう、妊婦とご家族皆様の幸せづくりに、歯科が貢献できればと考えています。

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はたなか・かず 岡山操山高、岡山大歯学部卒。同大学院歯学研究科(博士課程)修了。日本歯周病学会認定医、日本歯科保存学会専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年02月16日 更新)

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