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(13)手の疾患 笠岡第一病院 橋詰博行院長 痛み少ない低侵襲手術を工夫

はしづめ・ひろゆき 高知学芸高、岡山大医学部卒、同大学院医学研究科修了。岡山済生会総合病院、岡山大助教授などを経て、2005年から笠岡第一病院院長。日本整形外科学会専門医、日本手外科学会専門医、日本リウマチ学会指導医、日本リハビリテーション医学会指導責任者、岡山大臨床教授。来年2月に岡山市で開かれる日本肘関節学会学術集会の会長も務める予定。62歳。

 ―手外科の疾患には痛みやしびれが生じるものが多いそうですね。

 橋詰 指の曲げ伸ばしがスムーズにできず、無理に伸ばそうとするとバネがはじけたような動きをするばね指や、手首の親指側に腫れと痛みが生じるドケルバン病、人さし指と中指を中心に親指から薬指の半分までしびれが及ぶ手根管(しゅこんかん)症候群などがあります。ばね指とドケルバン病は腱鞘(けんしょう)炎の一種です。手根管症候群を含めたこの三つは50代の閉経後や妊娠中の女性に多いのが特徴で、何らかの原因でホルモンのバランスが崩れることが影響していると考えられています。

 ―手が不自由になると生活に支障を来します。どのような治療をしますか。

 橋詰 ばね指やドケルバン病は、腱鞘内にステロイド剤を注射。手根管症候群は神経の回復を促すビタミン剤を服用したりします。それでも症状が治まらない場合に手術をします。

 ―低侵襲で早期に手を使えるような手術を工夫しているそうですね。

 橋詰 ばね指の手術は、引っ掛かっている腱鞘の一部を注射針の先端で切ります。メスで皮膚を切れば7~10日は水に濡れないようにしなければなりませんが、この術式では翌日から水に濡れても問題ありません。何より全く傷が残りません。手根管症候群は、手首から内視鏡を入れ、神経を圧迫している靱帯(じんたい)を切り、手根管を開放します。従来は手のひらから手首にかけて最大で6センチほどメスを入れるのが一般的でしたが、内視鏡手術なら傷が小さく痛みも少ないです。ドケルバン病は通常の腱鞘切開術を行いますが、抜糸しなくて済む縫合を取り入れています。

 ―内視鏡手術はいつから行っていますか。手根管症候群以外にも取り入れていますか。

 橋詰 私自身は岡山大病院時代の1993年から全国に先駆けて行っています。親指の付け根の軟骨がすり減る母指CM関節症も10年前、内視鏡の術式を考案しました。親指の根元から内視鏡を入れ、CM関節内をきれいにした後、手首から腱を1本引き抜き、なくなった軟骨の代わりに移植するのです。

 ―病院の年間の手術件数を教えてください。

 橋詰 上肢の2013年度実績は約1500件。ばね指が約800件、手根管症候群が約350件、手と手首の骨折が約60件、ドケルバン病が約40件、骨軟部の腫瘍・腫瘤(りゅう)が約25件などです。私はほとんどの手術に立ち会っています。患者さんは地元の井笠圏域が最多ですが、福山圏域を中心に岡山県外からも来られます。

 ―画像診断の専門医がいる岡山画像診断センター(岡山市北区大供)の協力を得て、遠隔画像診断をしていますね。

 橋詰 2008年からCT(コンピューター断層撮影)とMRI(磁気共鳴画像装置)で行っています。手をはじめ上肢には重要な神経と血管が通っており、診断や手術に際して正確な画像を把握する必要があります。整形外科と画像の専門医がそれぞれ診断することで精度の高い診断を下せるのです。すなわち、肩、肘(ひじ)、手関節、指先など、各部位や病変の大きさにあった最適の撮影方法と画像処理について助言を得ることができ、病変の性質や広がりを正確に把握することができます。

 ―特に、二重診断が有効な疾患は。

 橋詰 手首の小指側の軟骨が傷つくTFCC(三角線維軟骨複合体)損傷は、手術をすべきかどうかを決めるのにMRIによる画像診断が必要です。また、腫瘍・腫瘤の場合は、造影剤なども使用して良性か悪性かを診断するのに有効です。

 ―新しいMRIを導入したそうですね。

 橋詰 昨年、岡山県西部では初となる3テスラのMRI装置を導入しました。テスラとは精度の指標となる磁場の強さを表し、従来の1・5テスラの約2倍の画像情報が得られます。これまで不明瞭だった線維軟骨の組織が鮮明に見えるようになり、威力を発揮しています。

 ―手術から一定期間を経ても痛みが引かないことがあると聞きます。

 橋詰 CRPS(複合性局所疼痛(とうつう)症候群)と呼ばれる慢性の強い痛みの場合は、ペインクリニック科で診ています。また、痛みやしびれが神経などに起因し、整形外科医では診断が困難なケースもあります。患者さんの不安解消につながればと、岡山大脳神経内科の専門医に定期的に診察に来てもらっています。

 ―運動器の機能回復にはリハビリが重要です。

 橋詰 手術当日からのリハビリが大事です。特に、指の腱は組織が緻密で癒着しやすいので重要です。リハビの良し悪しがQOL(生活の質)を左右します。病院だけでなく、家庭でのリハビリも指導しています。

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 笠岡第一病院(笠岡市横島1945、(電)0865-67-0211)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年02月16日 更新)

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