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(1)心因性うつ病について 医療法人社団良友会 山陽病院理事長 中島良彦

なかしま・よしひこ 岡山朝日高、岡山大医学部卒。同大学院博士課程修了、医学博士。岡山大医学部精神神経医学教室講師を経て、1975年開業。現在医療法人社団良友会理事長、社会福祉法人報恩良友会理事長。

図:伝統型うつ病の類型

 人生は、人との付き合いなくしては生きていけません。母親との出逢(あ)いから始まって、幼友達、学生時代の友人、先輩、後輩、先生方。社会に出てからは上司部下の付き合いと、多くの人との出逢いとその関係が人生を豊饒(ほうじょう)なものにしていきます。

 その関係性が良い時には幸せであって、ストレスも感じません。人間関係のもつれ、不都合が心の葛藤、ストレスを感じさせ、愛する人、大切な人を喪(うしな)うと誰もが悲しみ、気分が沈み、思考は止まり、眠れなくなります。

 このストレスがその人にとって大きいほど、またストレス耐性が低い人ほど、うつ気分も大きくなり、不登校となり、会社を休み始める。こうしてうつ症状は社会生活に支障を来してうつ病となります。これが「心因性うつ病」と言われるものです。

 私が学んだ伝統的ドイツ精神医学のうつ病の類型は、うつ病を心因性と内因性と身体因性と大きく三つに分けます。心因性は原因の大部分が精神的ストレスの負荷によって起きる場合をいい、そして、脳の器質的な変化、例えば脳梗塞後遺症とか、慢性腎不全などの全身病がその原因と認められるうつ病を身体因性うつ病と名付けます。そして、原因のはっきりしない生来性のものを内因性と分類していました(図)。

 肝心なことは、失恋した、親が亡くなった、上司にこっぴどく叱られたというような精神的ストレスによる心因性うつ病の抑うつ症状がいかに重くなっても、その延長線上に内因性うつ病があるわけではないのです。きっかけとして精神的ストレスがあっても内因性は内因性なのです。内因性と心因性との間には大きな異質性があります。

 近年自殺者が3万人を超える事態が続いて、政府もうつ病をがん、急性心筋梗塞と同じ保健医療計画の中に加え、専門学会もマスコミも大きく取り上げるようになってきました。「うつ病は風邪のようなものだ」とか、誰でもかかるものだとして、「うつ病」という病名が一般化し、範囲があいまいになり、身近な存在になると同時に、軽く考えられるようになってきたのです。新型うつ病とか現代型うつ病という病名は、まだ学会で議論が煮詰まっていなくて、明確な定義があるわけではないのです。

 もう一つ病名を混乱させている原因があります。それは米国精神医学会の診断基準のICD―10、DSM―IVが日本に導入されてきたことです。このことは後ほどとり上げましょう。



 山陽病院((電)086―276―1101)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年03月02日 更新)

タグ: 精神疾患

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