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(7)糖尿病と歯周病 岡山大学病院歯周科講師 大森一弘

おおもり・かずひろ 岡山一宮高、岡山大歯学部卒。同大学院医歯学総合研究科修了。米ボストン大歯学部博士研究員、岡山大大学院医歯薬学総合研究科助教を経て2014年から現職。

 戦後の高度経済成長は、日常生活に大きな変革をもたらしました。西洋化の波に乗り、食生活においては野菜類と魚類が中心の食から肉類が中心の食へと変化し、行動においては日本の代表産業の成果である自動車の急速な普及に伴って日々の運動量が減少しました。その結果、団塊の世代を中心とした中高年者の多くは、気づかないうちに「生活習慣病」と称される病気に悩まされるようになりました。

 生活習慣病の代表的なものとして、「糖尿病」があります。2013年の国民健康・栄養調査(厚生労働省)の中で、20歳以上の男性では6人に1人が、女性では10人に1人が糖尿病である可能性を強く疑われると報告されています。その割合は、50歳代以降で急増します。「痛み」などの明らかな自覚症状がないためでしょうか、糖尿病であることを自覚していない患者さんが多くいます。糖尿病は単に血糖値が高くなるだけの病気ではありません。糖尿病の本当の恐ろしさは「合併症」にあると言われています。

 糖尿病の合併症としては、網膜症、腎症、血管障害、そして神経障害などがあります。近年では、口の病気である歯周病も合併症の一つとされるようになりました(図)。網膜症が重症化すると失明につながり、腎症が重症化すると血液透析が必要になります。また、血管・神経障害が重症化すると、心筋梗塞による死や壊疽(えそ)による足の切断などが起こり、生活の質(Quality of Life=QOL)が著しく低下します。

 一方、糖尿病によって歯周病が重症になると、人生の楽しみの一つである「食の楽しみ」を失ってしまいます。さらに、歯がぐらついたり抜けたりして食事が困難になると、栄養のバランスが悪くなるために糖尿病の状態がさらに悪化するという悪循環になります。糖尿病治療のために栄養士から理想的な食事(栄養)指導をせっかく受けたとしても、きちんと咀嚼(そしゃく)して食事しなければ、指導の効果が期待できません。丸のみに近くなると、ついつい食べ過ぎてしまいやすいのです。

 糖尿病に代表される生活習慣病になると、「食生活の改善」が重要な治療項目の一つとなります。血糖値のコントロールはもちろんのこと、良好な口腔(こうくう)環境を維持することによって、健康的で楽しい人生を過ごすことが生活習慣病対策の目標です。そのためにも、いま一度、口の健康に着目しましょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年03月02日 更新)

タグ: 健康糖尿病岡山大学病院

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