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(14)婦人科疾患の腹腔鏡手術 倉敷成人病センター 安藤正明副院長 子宮温存術考案し出産例も多数

あんどう・まさあき 岡山朝日高、自治医科大卒。1986年から倉敷成人病センターに勤務。2009年から副院長、内視鏡手術センター長。日本産科婦人科学会専門医、日本内視鏡外科学会技術認定医、日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医。京都大臨床教授など務める。内視鏡外科学の発展に大きく貢献した医師に贈られる日本内視鏡外科学会の「大上賞」を2013年に産婦人科医として初めて受賞。60歳。

 ―ほとんどの手術を腹腔(ふくくう)鏡で行っており、全国から患者が来られると聞きます。これまでの症例数を教えてください。

 安藤 1997年以降、現在まで約1万2千例です。卵巣のう腫の簡単な症例からスタートし、1年後にはがんも手掛けるようになりました。2014年は、子宮全摘が550例、子宮筋腫核出が230例、がん(子宮頸(けい)がん、子宮体がん、卵巣がんの3種類)が153例などです。子宮頸がん、卵巣がんまで腹腔鏡で治療する施設は全国でも極めてまれです。

 ―腹腔鏡にも複数の術式があるそうですね。

 安藤 1センチと5ミリの穴を3、4カ所開けるのが一般的で、筋腫が大きかったり癒着がひどいなど困難な症例はこの方法を採用します。さらに低侵襲の術式として、おへそに1・5~2・5センチの穴を1カ所のみ開けてそこから腹腔鏡や複数の手術器具を入れる単孔式、2ミリ程度しかおなかに穴を開けない細径式、膣から内視鏡を挿入しおなかに傷を付けない経膣式の大きく三つの方法があります。細径式と経膣式は私が考案しました。

 ―腹腔鏡のメリットは。

 安藤 開腹手術に比べ、手術痕がはるかに小さく、体の回復が早く、腸閉塞などの合併症のリスクが小さいのがメリットです。腹膜炎などの重篤な合併症のリスクは、難度の高い子宮全摘の場合でも0・2~0・3%程度しかなく、卵巣のう腫ではほとんどありません。

 ―子宮頸がん治療で、国内で初めて腹腔鏡による子宮温存手術を手掛けられました。後に出産された方もいらっしゃるそうですね。

 安藤 腫瘍径が2・5センチぐらいまでの初期に限り、温存手術が可能です。01年以降、70人にこの手術をし、妊娠を試みた30人のうち、2006年以降16人が出産されました。

 ―どういうふうにして子宮を残すのですか。

 安藤 広汎性子宮頸部切除と呼ばれる術式です。頸部、膣の一部と、子宮と骨盤をつなぐ子宮傍組織と呼ばれるところを切除し、胎児が育つ部分である子宮体部と膣を縫い合わせます。初期なら子宮体部にがんが浸潤しないので切除しなくてよいのです。開腹手術に比べ癒着のリスクが低く、結果的に妊娠率が高いと思います。ただ、これを行える施設は私どもの施設以外、国内にほとんどありません。

 ―子宮を残すということは再発のリスクも残るのでは。

 安藤 術後少なくとも2、3年はCTをして再発の有無を調べる必要があり、避妊してもらいます。私どもが行った全70例のうち再発は2例(2・9%)だけ。一般的に子宮頸がんの再発率は5%程度と言われていますので、良い成績といえるのではないでしょうか。

 ―一方、子宮体がんの治療は子宮頸がんよりも広汎に転移が起こる可能性があり、難易度がより高いのではないですか。

 安藤 子宮体がんは腹部大動脈のそばにあるリンパ節に転移しやすいため、これをきれいに切除することが重要です。後腹膜アプローチといって横腹から最短距離で腹腔鏡を入れることによって、確実に到達できます。リンパ節に転移した子宮体がんの5年生存率は60%程度が平均ですが、私どもは100%です。

 ―婦人科疾患の中でり患率が最も高い子宮内膜症も難治性のものが少なくないと聞きます。

 安藤 直腸や尿管の中に内膜症ができた場合などは、外科や泌尿器科の専門医に協力してもらい、腸や尿管を切除し機能を再建する手術をします。極めて高度な技術が求められ、これを腹腔鏡で行う施設は国内でほとんどないのが実情です。

 ―腹腔鏡で取り除ける子宮筋腫の大きさには限界がありますか。

 安藤 子宮筋腫治療には、筋腫そのものを取り除く子宮筋腫核出術と子宮ごと摘出する子宮全摘術があり、核出術なら最大1・5キロ、全摘術なら4・5キロまで腹腔鏡で対応できます。妊娠や出産を望む方には可能な限り核出術、あるいは子宮動脈塞栓術(UAE)を行います。UAEは動脈からカテーテルを挿入し血管を詰まらせる製剤を注入、筋腫への栄養や血液をストップさせる方法で、放射線科医が行います。

 ―13年10月、手術支援ロボット(ダヴィンチSi)を中四国の民間施設で初めて導入しました。利点を教えてください。

 安藤 難治性の高いがんを中心に、週に2、3例と国内最多ペースで行っています。立体感のある3D画像を得られ、普通の腹腔鏡に比べ繊細な操作ができるのがメリットです。



 倉敷成人病センター(倉敷市白楽町250、(電)086―422―2111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年03月02日 更新)

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