文字 

(13)脊椎変性疾患治療 岡山済生会総合病院脳神経外科 三好康之 診療部長

顕微鏡をのぞきながら手術をする三好診療部長

骨棘が神経を圧迫する頸椎症(赤の囲み部分)。前方術により、骨棘を削り骨の間にケージ(白く映っているもの)を挿入することで痛みなどから解放される

手術をし退院間近の患者に笑顔で接する三好診療部長

痛みも合併症も少ない先端手術

 「筋肉や骨、靱帯(じんたい)に負担が少なく、安全性の高い手術を心掛けている」

 脳神経外科医としては岡山県内でただ1人、中四国でも3人しかいない日本脊髄外科学会の指導医。脳卒中や脳腫瘍など一般的に脳神経外科医が扱う疾患はもちろん、加齢などに起因するあらゆる脊椎変性疾患を治療する。

 脊椎変性疾患とは、椎骨や椎骨と椎骨の間にありクッションの役割を果たす椎間板や靱(じん)帯(たい)が変性し、脊髄や脊髄から枝分かれした神経根を圧迫し手足の痛みやしびれ、運動まひを引き起こす病気の総称。

 変形した骨や分厚くなった靱帯が頸(けい)髄を圧迫する変形性頸椎症、靱帯そのものが骨になり圧迫する後縦靱帯骨化症、椎間板の一部が脊柱管の内側に出っ張り神経を圧迫する椎間板ヘルニア、靱帯などが分厚くなり脊柱管が狭まる脊柱管狭窄(さく)症、骨がずれる腰椎すべり症などが主な疾患だ。

 治療は通常ならまず投薬。症状が改善せず、日常生活に支障を来すようになれば手術を勧める。

 頸椎疾患の手術には、首の前を切る前方手術と後ろを切る後方手術がある。

 前方手術は主に病変が2カ所までの場合に選択する。のどのやや外側を3~4センチほど横に切開し、神経を圧迫している骨棘(こつきょく)、ヘルニア、靱帯を切除。切除後の空間にチタン製の固定材(ケージ)を挿入し固定する。

 三好は症例によってはこのケージを用いない高度な手術も行う。椎体の前面に約5ミリの溝を掘り脊髄前面の病変を外側から斜めに切除する方法だ。正常な椎間板や椎体を残すことができ、合併症のリスクを軽減させる。

 全体の6~7割を占める後方手術は椎弓形成術と呼ばれ、首の後ろを5センチほど縦に切開し椎弓をドリルで削って骨を観音開きにし、開いた左右の椎弓間を人工骨で固定する。

 一般的な椎弓形成術は椎弓を広げるのみだが、三好は椎弓の内側にある黄色(おうしょく)靱帯も切除し、神経圧迫の要因を全て取り除く。

 後方手術における切開は10センチ程度が一般的だが、三好は半分の約5センチしか切らない。もっと小さくするのは可能だが、そうすれば手術時間がより長くかかり患者の負担は大きく、合併症リスクも高まると推測するからだ。

 「最も低侵襲で最も合併症のリスクを少なくする方法を考えるのが医師の務め」と強調する。

 一方、腰椎疾患のうち、腰部脊椎管狭窄症では、MILD(筋肉温存椎弓間除圧術)を行う。病変が1カ所なら切開はわずか約2センチ。筋肉をはがさず骨を内側から削るので、術後の回復が非常に早い。高度な技術が求められるため、岡山県内では三好だけが行っている術式という。

 腰椎変性すべり症では、最先端のXLIF(超外側椎体間固定術)を米国で研修。今月、自身の患者に対する初の手術を無事に終えた。XLIFは横腹から特殊な機器を挿入し椎間板を切除し、その空間にケージを入れ、後方からスクリューとロッド(棒)で固定する。背中側の筋肉や神経を傷つけず、術後の痛みが軽い。骨がくっつくのも早い。

 何よりも三好が誇りとするのが合併症の少なさ。これまでに行った脊椎変性疾患の手術1400例のうち合併症は1・6%。重篤なケースは皆無で、ほとんどは症状が出なかったり、ほどなく回復する一過性のものだ。

 岡山大時代の2001年、独協医科大に留学するなどして腕を磨いた。「脳の手術で培った細かな技術が役立っている。脊椎の手術で得た技術も脳の手術にフィードバックできている」

 岡山済生会総合病院が行う脊椎変性疾患の年間手術は260例と、脳神経外科としては中四国屈指の実績を誇る。

 「腰を曲げていた人が背筋を伸ばして歩けるようになったり、痛みが取れてはつらつとした表情になると、うれしいですね」。平凡な言葉の中に誠実さがにじむ。

バルーン椎体形成術(BKP)
風船膨らませ、骨持ち上げる

 骨粗しょう症を原因とする圧迫骨折に対する最新治療。背中から骨折した椎体に針を通し風船を膨らませてつぶれた骨を持ち上げ、できるだけ骨折前の状態に戻し、セメントで固定する術式。傷跡が目立たず、術前の痛みが速やかに改善する。2010年に保険適用された。

 岡山県内で実施できるのは大規模施設に限られ、岡山済生会総合病院は13年から実施し、これまでに20例行った。

 従来は、バルーンを使わずに粘度の低いセメントを入れていたため、神経側や血管に漏れて肺塞栓症などの重篤な合併症を起こす恐れがあった。BKPはセメントの粘度が高く、注入と言うよりも置くようなイメージという。



 岡山済生会総合病院(岡山市北区伊福町1の17の18、(電)086―252―2211)

 みよし・やすゆき 井原高、岡山大医学部卒。米・ケンタッキー大に留学後、市立備前病院、住友別子病院(愛媛県新居浜市)、岡山大病院講師などを経て2013年4月から岡山済生会総合病院に勤務。14年10月から診療部長。日本脳神経外科学会専門医、日本脊髄外科学会指導医。50歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年03月16日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ