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チーム医療による「低侵襲治療」実施 心臓病センター榊原病院

心臓手術のポイントなどについて話す都津川心臓血管外科部長

 「動いたら胸がしんどい」「胸痛発作がある」と訴え、大動脈弁狭窄(きょうさく)症の紹介状を持った80歳代の女性が心臓病センター榊原病院(岡山市北区中井町)を訪れた。都津川敏範心臓血管外科部長が担当になり、手術の検査をした。動脈硬化で大動脈弁が硬くなり、人工弁に取り換える必要がある。

 従来の開胸術は胸骨を縦に大きく切開するので出血、感染症などのリスクがあり、術後骨がひっつくまで3カ月かかり、車の運転も出来ない。患者の負担も重く、心機能が低下している重症患者、高齢者は手術不適だった。年齢を考慮し、開胸せずカテーテルで人工弁を取り付ける経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI=タビ)、あるいは肋骨(ろっこつ)の間を8センチほど切開して行う肋間小開胸術の二つを考えた。大動脈弁から僧帽弁に連続する石灰化があり、タビにすれば弁輪破裂の可能性が生じ、結局、肋間小開胸術を選んだ。

 手術は右乳房の外側から斜め下へ8センチ切開し、心停止。大動脈弁(直径2センチ)の硬くなった部分を超音波吸引器で丁寧に除去。周囲6センチの弁輪を4ミリ間隔、15針で縫い合わせ、人工弁を弁輪に密着させた。3・8倍の拡大鏡で見ながらの細密な手技。しかも大動脈弁が見える手術野は8センチ四方、開胸術の3分の1の狭さ。見えない周囲の構造、血管の位置などが頭に入ってないとできない。小切開手術150例を超える経験がある都津川部長だからできる。90分で心臓は動きだした。

 患者は、翌日からリハビリを開始、2週間で退院した。「大動脈弁手術を従来の開胸術、カテーテル、肋間小開胸術の三つのオプションから選択できる病院は全国でも数少ない」と都津川部長は話す。

 2013年保険適用になったタビは、最新の設備と専門医の高度な医療技術が必要で、施設認定を受けたのは全国で42病院。

 肋間小開胸術は慶応大学病院、名古屋第一日赤病院などで行われ、榊原病院は05年から心房中隔欠損症、僧帽弁疾患などの小開胸手術に取り組み、07年大動脈弁、10年大動脈弁と僧帽弁の同時手術を相次いで国内初実施した。昨年末までに546例になった。

 榊原病院は昨年、613例の心臓血管外科手術を行っている=表参照。内訳は弁膜症手術285例、この3分の1、96例は右肋間小開胸術。冠動脈バイパス手術142例、うち左肋間小開胸術17例、人工心肺を使わず心臓を動かしながら手術するオフポンプ97例。拍動する心臓の表面にある細い血管をミリ単位で縫い合わせる高い技術がないと不可能。胸部大血管手術160例。このうち開胸せず、カテーテルで人工血管を留置するステントグラフト内挿術63例。

 613例の治療実績はハイボリュームセンターとして全国紙などのランキングで全国5~8位にある。香川県から救急搬送が増え、中国・四国の心臓病の中核病院になっている=円グラフ参照。

 数の多さとともに、全手術の45%が開胸しないカテーテル、小切開、オフポンプによる低侵襲手術。切開を小さく、痛みを軽く、入院期間を短くし、手術リスク、患者負担を軽くする。高度な医療技術、手術医の手技、つまり質の高さ、ハイクオリティーが評価されている。

 心筋梗塞で冠動脈が詰まった部位にステント(金属の網目状のトンネル)を挿入して血流を良くするステント留置1117件、不整脈を起こす部位を焼灼するカテーテルアブレーション277件。循環器内科の低侵襲治療も多い。

 「医師と、医療をサポートする専門職のチーム医療が、難易度の高い手術でも行える力を付けている。安全で質の高い医療の提供、これが私たちの病院の理念、使命です」と榊原敬理事長は言う。

 高齢時代に入り、心筋梗塞、心臓弁膜症の手術はかつて出来なかった80代、90代でも手術が可能になっている。

 大動脈弁の肋間小開胸術は実施開始5年間で70歳未満が80%だった。術中の患者管理の工夫などで高齢、重症患者を徐々に増やし、現在は70歳以上が60%に。(最高齢は89歳)。榊原理事長は「高齢、重症の壁を越え、安全圏をさらに広げ、専門病院の力で今後も多くの人々を救命したい。チーム医療を通して、ハイボリュームセンターの知識と技術を生かし、質の高い医療の提供に努めていく」と話す。低侵襲だから、高齢、重症患者でも回復は早い。

◇ 心臓病センター榊原病院((電)086―225―7111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年03月16日 更新)

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