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(8)中年期に見られる歯周病~ストレスと喫煙~ 岡山大大学院医歯薬学総合研究科歯周病態学分野 助教 本郷昌一

ほんごう・しょういち 倉敷青陵高、徳島大歯学部卒。岡山大大学院医歯薬学総合研究科(博士課程)修了。国立療養所大島青松園厚生労働技官を経て、2014年から現職。日本歯周病学会認定医。

 歯周病は口腔(こうくう)内の常在菌である歯周病原細菌が感染して、歯肉や歯を支える骨(歯槽骨(しそうこつ))に炎症を引き起こす病気です。一般的な歯周病治療は、この原因菌を機械的・化学的に除去して炎症症状を消退させます。しかし、原因菌を取り除くだけでは歯周病が治らないことも多くあります。

 歯周病の状態を悪化させ、治療の効果を妨げる要因を歯周病のリスク因子と呼びます。このリスク因子には、糖尿病や骨粗鬆(そしょう)症といった全身的な因子と、喫煙や心理的・社会的ストレスといった環境因子が含まれます。

 ストレスは、細菌感染に対する免疫反応を抑制したり、感受性を増加させたりすると考えられています。また、ストレスによる生活習慣の変化によって、口腔衛生状態の悪化、喫煙習慣の成立、歯ぎしり(ブラキシズム)の発症を引き起こし、間接的に歯周病の状態を悪化させることもあります。

 特に、歯ぎしりによって強い咬(か)む力が歯に加わることで、歯の根やその周囲の歯槽骨に負担がかかり、歯周組織に炎症があるときに骨の破壊が一気に進行します。ストレス軽減の対応策として、十分な睡眠やリラックスを心がけるように指導したり、専門家によるカウンセリングを勧めたりします。

 喫煙は、歯周病の最大のリスク因子の一つと考えられており、『喫煙関連歯周炎』とも呼ばれています(図)。喫煙者は、非喫煙者に比べて歯周病を発症する率が約2~9倍と高くなります。一方、禁煙すると歯周病発症のリスクが減少することも報告されています。たばこに含まれるニコチンは歯肉の血管を収縮させ、血流を減少させます。その結果、歯肉は低酸素の状態となり、歯周ポケット内の歯周病原細菌の増殖を促進させます。さらに、ニコチンは免疫など細胞機能を低下させ、歯肉や歯槽骨の治癒を遅らせます。

 また、喫煙者では、見た目上の歯肉の炎症が抑えられていることが多くあります。そのため、炎症症状を自覚しにくく、気付いた時には歯周病が重度に進行してしまうことが多くあります。

 喫煙への対応としては、禁煙指導や禁煙外来への紹介を行います。

 現代はストレス社会とも呼ばれ、仕事や家庭での人間関係などで多くの人がストレスを感じながら日々の生活を送っています。また、ストレスの緩和手段として喫煙にはしる人も多くいます。2014年度の喫煙率調査において、成人男性の約30%、成人女性の約10%が喫煙しています。特に喫煙率が高い年代である40歳代では、成人男性の約39%、成人女性の約15%が喫煙しています。

 歯周病が発症し始める年代は40歳代以降であり、ストレスや喫煙といったリスク因子が強く影響していることは言うまでもありません。喫煙のリスクをあらためて自覚するとともに、ストレス社会と上手につきあっていくことが求められているのかもしれません。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年03月16日 更新)

タグ: 岡山大学病院

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