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脳死・生体肺同時移植に成功 岡山大病院、世界初

手術を終えて記者会見する大藤教授=4日午後7時27分、岡山大病院

 岡山大病院(岡山市北区鹿田町)は4日、特発性間質性肺炎を患う男性(59)=北海道在住=への両肺移植で、左肺に脳死した人からの肺、右肺に生きている人からの肺を同時に移植する手術に成功したと発表した。脳死・生体肺同時の「ハイブリッド移植」は世界初という。

 執刀した大藤剛宏・臓器移植医療センター教授によると、脳死ドナーからの提供肺は医学的に状態が悪く、移植直後の呼吸機能が十分でないため、もう片方の肺に男性の息子(成人)の右肺下部の「下葉」という部分を移植して機能を補った。日本では原則55歳以上60歳未満の患者は脳死ドナーからは片肺しか移植を受けることはできない。さらに、男性は体が大きく、生体肺の一部の移植では呼吸機能の安定性に欠けることから、脳死肺と生体肺を組み合わせる手術を選択した。大藤教授は「機能の優れた生体肺も使うことで、一つの命を救うことができた」と説明した。

 手術は午前8時39分から始まり、10時間後の午後6時38分に終了。男性は移植された肺で呼吸し、容体は安定しているという。3カ月ほどで退院の見込み。

 男性は肺胞壁に炎症を起こし、十分に呼吸ができなくなったため、3月27日に日本臓器移植ネットワークに登録した。

 男性は「もうだめかと思っていたが、移植を受けられ、うれしい。ドナーやご家族、息子に感謝の気持ちでいっぱい」とコメントした。

 同ネットワークによると、ドナーは神奈川県内の病院に低酸素脳症で入院していた成人男性。岡山大病院の脳死肺移植は64例目、生体と合わせて141例目。

執刀の大藤教授「断念のケース減らせる」

 世界初の脳死・生体肺同時移植手術を執刀した大藤剛宏教授は術後、岡山大病院で会見し、「脳死による臓器提供が少ない日本でもこの方法であれば、医学的理由で移植を断念するケースを減らせる」と意義を語った。

 今回の手術では、医学的に移植困難と判断されるほどのドナーの肺だけでは、移植後の急性期に十分に呼吸できないと判断。より良い状態の生体肺を“補助エンジン”として移植することで急性期を乗り切り、体内で機能回復させる道を選んだ。

 男性は当初、息子2人から片方ずつ肺の一部の提供を受けることも検討したが、体格に合わなかったという。片方の脳死肺提供を受けられる年齢条件(60歳)に引っ掛かる直前のため、今回の機会を逃すことはできなかった。

 大藤教授は「(片方しか脳死肺提供を受けられない)55歳以上の人や、そもそも両肺移植が必要な感染症の患者を救える可能性が広がる」とした。

 日本臓器移植ネットワークによると、脳死肺の提供を待つ患者は3月2日現在で230人を超える。大藤教授は「移植を待つ患者は多い。移植に使われない脳死提供肺を少しでも減らしたい」と話した。

 特発性間質性肺炎 肺の組織が炎症を起こして厚く硬く変化し、縮んで動かなくなって、うまく酸素を取り込めなくなる病気。原因は不明。複数の病型があり、特発性肺線維症と呼ばれる型が多く、治療も難しい。歩いたり入浴したりといった日常生活で呼吸困難を感じ、急激に悪化することもある。息切れが徐々に進行し、重症化すると酸素療法が必要になる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年04月05日 更新)

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