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(3)レビー小体型認知症 倉敷平成病院認知症疾患医療センター長・神経内科部長 涌谷陽介

涌谷陽介医師

図1

表1

 皆さんは、「何か」を別の「何か」に見間違えたりしたことはありませんか? 見間違えるまではなくても、「何か」が「○○っぽく」見えるという経験はとても多いと思います。例えば、「トイレのドアノブ」が「ペンギンぽく」見えたり「アヒルっぽく」見えたりすることはありませんか?(図1)。瞬間的に「ペンギンぽく」感じた時の表情はきっと少しニヤッとしているはずですし、なんだかほっこりした気分でしょう。でも、「ドアノブである」という事実には、ほとんど心がゆり動かされることはありません。

 見ているものが「何」であるか同定するのは、脳に蓄えた情報を参照するじっくりした脳内作業であり、心の動き(感情や情動の変化)をすぐには伴いません。でも、「○○っぽく」見てしまう脳内作業は実はとても迅速で、かつ素早い心の動きと体の変化を伴います。何かを見て、その瞬間にドキッとする、ギョッとする、ハッとすることありますよね。その時大抵、脈は早くなり、体の緊張は高まり、冷や汗だって出ます(自律神経の働きの変化)。

 認知症の中で3番目に多いレビー小体型認知症では、このような視覚に関係した認知機能が衰えやすいと言われています。まぼろし(幻視)が見えたり、物や人物の見間違えが増えたりします。その時に、心の動きが大きくなって混乱してしまい(情動の変化)、周囲の人がみると驚くような言動(行動化)をすることもあります。例えば幻視の場合、「小さな子どもが大勢窓をすり抜けて入ってきたので(幻視)びっくりしたけど(情動の変化)、急いでおやつを持ってきてやろうとしました(行動化)」といった具合です。

 壁の模様やシミなどが人の顔や虫・動物に見えると強く感じてしまう(場合によってはそれが動いていると感じる)ことも多くみられます(この現象は、パレイドリアとも呼ばれていて、東北大学の先生方が開発された「パレイドリアテスト」という検査法もあります)。この時に、嫌いなものや恐ろしいもの、避けなければならないものに見えてしまったら、穏やかな気持ちではいられないはずです。このような見間違いが増え、心の動きが大きくなると、慣れ親しんだ場所も安心できる環境ではなくなるかもしれません。

 人物の顔の認識が曖昧になり見間違えが身近な人に及ぶと、患者さんは混乱しやすくなります。例えば、目の前にいる身近な人を、「よく似たニセモノ」と思ったり「もう一人どこかにいる」と言ったりすることもあります。この症状には顔形や表情の判別の障害だけではなく、「身近な顔」を見たときに感じる気持ち(例えば安心感や親密感)が湧きにくくなっていることも関係していると考えられています。

 レビー小体型認知症では、アルツハイマー型認知症より目立たないことも多いですが、記憶障害(もの忘れ)も伴います。その他に、いろいろな運動症状や自律神経症状も伴いやすくなります。例えば、座っていても体が片方に傾く、歩行バランスが悪くなる、体の動きがぎこちなくなる、などのいわゆるパーキンソン症状や、便秘、排尿障害、立ちくらみなどの自律神経症状です。

 また、はっきりしている時とぼんやりしている時・夢を見ているような時の変動があることも特徴の一つです(覚醒度や認知機能の変動)、うつ状態や睡眠中に手足をバタバタさせたり大声を上げるような症状(レム睡眠行動障害)も伴うことがあります。

 さらに、いろいろなお薬への「過敏性」があることも特徴の一つです。特に向精神薬(抗精神病薬、抗うつ薬、安定剤など)により、思いがけない症状の変化が起こることがあるので注意が必要です。

 これらのレビー小体型認知症の症状の組み合わせや程度は、患者さんごとに異なるので、しっかりした問診と診察が必要です。脳の機能を観察するだけでなく、体全体を観察する必要もあります。レビー小体型認知症は、ご家族など身近な方々にとっても症状やその変動が理解しづらかったり、ショックを受けたりすることも多いので、適切な診断を受けることや病の成り立ち(病態)を理解することがとても大切です。また、対応の仕方やケアについて、医師、看護師、介護スタッフとともに考えていくことが安心につながります。

 レビー小体型認知症の特徴を簡単ににまとめていますので、参考にしてください。



 倉敷平成病院((電)086―427―1111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年04月06日 更新)

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