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(4)さまざまな要因 倉敷平成病院認知症疾患医療センター長・神経内科部長 涌谷陽介

涌谷陽介センター長

 初回に、認知症は「一つの脳の病気を表す言葉ではない」と書きました。代表的な病気には、前2回で解説したアルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症が挙げられますが、そのほかにもたくさんの病気があります。「血管性認知症」や「前頭側頭葉変性症」という病気もあります。血管性認知症は、文字通り脳血管の病気(脳出血や脳梗塞)により認知症が引き起こされた状態です。前頭側頭葉変性症は、前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉という脳の四つの大きな区分けのうち、前頭葉や側頭葉の機能が比較的限局的かつ進行性に障害される病気です。

 これらの認知症の症状は非常に多彩で、診断には専門的な診察と検査が必要である場合が多いです。もの忘れが最初から目立つことは少なく、代表的な症状としては、情動・行動の変化や言語障害です。例えば、「人が変わったように」怒りっぽくなった・落ち着きがなくなった・表情が変わった・身勝手なことばかりする・同じことばかり繰り返す(同じ時間に同じコースを散歩する、同じものを食べ続けるなど)といった情動・行動の変化や、言葉の意味がわからなくなる・文字の読み書きの間違いが多い・スムーズな会話ができないといった言語障害です。自分の症状にまったく気がついていなかったり、頓着(とんちゃく)がなかったりすることも多いのでなかなか難しいのですが、早期に診断してその人に合ったケアの工夫をすることがとても重要です。

 他にも認知症を引き起こす病気や認知症のように見える状態を引き起こす原因がありますので、幾つか代表的なものを簡単に解説します。

 正常圧水頭症という病気もまれなものではありません。脳の保護液でもある髄液の循環の異常により引き起こされる病気で、特徴的な三つの症状には認知症、歩行障害(バランスが悪くなる、よちよち歩きになるなど)、失禁があります。すべての徴候がそろわない場合もあります。

 慢性硬膜下血腫は、軽い頭部外傷(例えば転倒による頭部打撲)の数週間~数カ月後に症状が出現することが特徴です。はっきりとした頭部外傷歴がない場合もあります。脳の表面と脳の保護膜である硬膜の間の血管が切れて血の塊(血腫)ができ、脳を圧迫してしまうことが原因です。数日~数週間の経過で、片側の手足の動きが悪くなったり(不全片麻痺(まひ))、歩きにくさ、しゃべりにくさ、ぼんやりしている、集中力がない、などの症状を呈したりします。症状は、血腫の部位や大きさによってさまざまな症状を呈します。

 正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫の診断には、頭部CTやMRIが非常に有用です。どちらも脳外科的な対応で症状が軽減したり消失したりすることも多いので、早期発見が重要です。

 びっくりされるかもしれませんが、てんかんという病気は、高齢者でもまれな病気ではありません。患者さんの数はむしろ年齢とともに上昇する傾向にあります。いわゆるけいれん(ひきつけ)を伴うてんかん発作は、症状が激しいためすぐにわかりますが、けいれんを伴わないてんかん発作は、発見が遅れがちです。数分間空を見つめるようにぼーっとしている、話している最中に急にしゃべらなくなる、なんの理由もなく怒ったり攻撃的になったりする、舌なめずりを繰り返す、などの症状が繰り返し起こる場合は、てんかんを疑う必要があります。

 頭部CT・MRIや脳波という検査も有用ですが、まず詳細な病歴聴取が何よりも大切です。発作の様子を言葉で伝えるのが難しいこともあるので、医師に伝えるためにその様子をスマートフォンなどでビデオに収めておくのもいいと思います。治療としては抗てんかん薬が用いられますが、高齢者の場合安全性を考慮して、少量から使用することが重要です。

 薬剤の脳への影響により、認知症のような症状を呈する場合もあります。ご高齢の方は、複数の病気を患っていることも多く、それに従い内服薬の種類が増えます。しかし、加齢に伴って、胃腸機能や肝臓・腎臓機能の低下、体重減少などにより、通常の量でも脳の機能に影響が及ぶこともあります。いわゆる薬の「飲み合わせ」の問題も増えます。特に、睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗アレルギー薬(およびこれらの併用)の影響で、もの忘れが増えた、ぼんやりしている、うとうとすることがふえた、集中力がない、といった症状をよく経験します。夜間不眠や興奮しやすさの原因が、市販薬・健康食品(例えばメチルエフェドリン配合総合感冒薬、カフェイン含有飲料)やアルコールである場合もあり注意が必要です。

 ビタミン欠乏症(ビタミンB1、B12、葉酸、ニコチン酸など)や高アンモニア血症という状態も、認知症のような症状を呈します(実際には意識障害です)。

 睡眠時無呼吸症候群も認知症と間違われることもあります(認知症に合併することもあり注意が必要です)。詳しくはぜひ、当院堀内先生が書かれた記事(メディカ97)を読み直してみてください。

 病気の名前を挙げ始めたらきりがないくらいですが、に作ってみましたのでご覧ください。



 倉敷平成病院((電)086―427―1111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年04月20日 更新)

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