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(4)内因性という意味 医療法人社団良友会 山陽病院理事長 中島良彦

中島良彦理事長

 内因性うつ病の時は気分の落ち込みと同時に思考と行動が制限され、意欲も無くなる症状が一生のうち何回か現れます。初回の場合には診断が保留されます。

 その時に同時に自律神経症状として、身体の分泌液の低下を伴います。唾液が出ないので口渇、胃液も出ないので食欲不振、腸液も出ないので便秘症状となり、さらに頭痛、不眠が伴うことが多いのです。不眠はうつ病に必発です。一日の中でリズムがあり、多くの場合は朝に眠気が残り、夕方になると元気が出てきます。このように精神症状と身体症状とが同時に現れますが、身体症状のみが目立って、精神症状が表に出ないことがあります。これを一時、「仮性うつ病」と呼んだ時期がありました。紛らわしいので学会で取り決めて、この病名は使用しないと決めたこともありました。

 そのように本物のうつ病の時には、情動の変化の精神症状と生理的に自律神経症状が伴って現れるので、何か内因的要素があると推測されます。そして、必ず自分の抑うつ症状は自分の問題として主体的に悩み、自分を責める方向性があり、決して他人のせいにすることはないのです。仕事が厳しいとか、自分に合わないと言って、上司のせいにすることはありません。そして、自らを責め、意気消沈していて生気がなく、どこかに「生きていてもしょうがない」といった厭世(えんせい)感を漂わせていて、追体験できないものを治療者に感じさせます。

 一見軽症に見えても、油断は禁物です。聞いてみましょう。「死にたいと思うことはありませんか?」。すると、わずかにうなずくのです。大儀だ、ゆううつだ、何もしたくないと言って寝床に伏していても、心の中に「何とかしなければ」という焦燥感、いらいら感も持ち合わせています。

 このように内因性うつ病の時には周期的に抑うつ症状が現れ、厭世感があり、そして自責的であり、心の奥深く焦燥感が見えるものです。ただ漫然と、ぼんやりと日を送っているのではないところが新型(現代型)うつ病と異なるところです。(図)

 本人のやる気が無く、休職し、不眠を訴え家に引きこもり、社会や職場に不適応な、そして、それを他人のせいにする他罰的な若者像の「新型うつ病」、即ち「現実逃避型うつ病」が増えてきています。

 その原因は、私は家庭の崩壊によるものではないかと考えています。「ホテル家族」と皮肉を込めて呼ばれるように、家庭に秩序が無くなり、家族がバラバラとなり、父親が友達のような父親ばかりになってしまいました。

 父親は信頼と尊敬で家庭を一つにまとめ、国と家の歴史と文化と社会のルールを子どもに教える大切な役目があるのです。それを全く放棄している現実が、社会適応能力のない若者をつくり出しています。父性の権威がない社会が、人格形成に最も大事な家庭を崩壊させているのです。



 山陽病院((電)086―276―1101)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年04月20日 更新)

タグ: 精神疾患

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