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消化器、乳がん 長期QOL向上に力 おおもと病院

大腸がんの手術をする磯崎院長(中央)

(右)山本泰久理事長・名誉院長(左)磯崎博司院長

 60代の女性に対する大腸がんの手術。執刀医は磯崎博司院長。2週間前に内視鏡で直腸の腫瘍を切除したが、病理検査の結果、がんが深く浸潤し、リンパ節転移の可能性があるため、この日、下腹部を約10センチ切り、リンパ節と直腸を切除した。

 真骨頂はその手技。直腸が標準より狭く器械で吻合(ふんごう)すれば狭窄(きょうさく)の恐れがあるため、直腸では難しいとされる手縫い吻合を選択。1時間半で無事に手術を終えた。

 おおもと病院(岡山市北区大元)は、岡山県を代表する消化器がんと乳がんの専門病院。磯崎院長の専門は、胃、大腸、肝胆膵(すい)など消化器全般に及ぶ。特に得意とするのは胃がん。消化器の中でも、国内で年間約12万人がり患する最も身近な胃がんは、早期発見できれば5年生存率が90%を超える。それだけに、患者の術後のQOL(生活の質)が焦点になる。

 合併症がなく、順調に体力が回復し、良い日常生活を送れるという長期的な視点からQOL向上を目指すことが重要なのは言うまでもない。

 磯崎院長は、胃がんに対するセンチネルリンパ節診断によって切除を最小限に抑える手術の第一人者の一人。「センチネルリンパ節を使った手術は術後の長期QOLを保つ切り札。低侵襲の腹腔鏡手術は短期的なQOL改善を図るものだが、われわれはもっと根本のところを目指している」と強調する。近年流行の腹腔鏡はほとんど行っていない。

 センチネルリンパ節とは、がんが最初に転移するリンパ節のこと。色素などを使って調べることができ、乳がんでは広く臨床で使われている。

 全身麻酔をし、約12センチ切開。口から内視鏡を挿入し、病変の周囲4カ所に色素を注入する。5~10分後に病変周囲のリンパ管とリンパ節が染め出され、リンパ節の一部を採取し病理診断に回す。そこでリンパ節に転移がないことが確認されると、胃の切除範囲を小さくする。

 一般的には、たとえ早期であっても胃の3分の2以上と周囲のリンパ節を切除するが、転移がないことが確認できれば、胃を2分の1から4分の3残すことができるのだ。

 最近、慈恵医大病院を中心としたグループによって胃の術後障害の程度を総合的にみる指標が定められた。同病院の医師と磯崎院長が共同で、おおもと病院で行ったセンチネルリンパ節診断による機能温存縮小手術を指標に基づき評価した結果、食後のめまいや腹痛、消化不良、体重の減少などが非常に少ないことが客観的に裏付けられた。

 しかし、センチネルリンパ節診断による縮小手術は相当な経験が求められるため、岡山県内ではおおもと病院以外は実施していないとみられる。

 磯崎院長は「センチネルリンパ節診断の有効性が証明された意義は大きい。一般的な治療として普及してほしい」と話す。

 大腸がんでは、肛門に近い直腸がんに対する自然肛門温存手術(ISR)を実践する。肛門括約筋を温存して直腸を切除し、肛門で吻合する。今では一般的な術式だが、磯崎院長は岡山県内で最も早く取り入れたパイオニアの一人だ。

 一方、乳がんなどの乳腺疾患は、山本泰久理事長・名誉院長が岡山県内屈指の実績を築き、現在は磯崎院長、村上茂樹副院長、松本柱副院長、高間雄大医師らが治療の中心を担う。

 2010年に最新鋭のデジタルマンモグラフィーを導入。従来機器より画像がはるかに鮮明で診断が容易になった。

 乳がんは他のがんに比べ、抗がん剤やがん細胞だけに効く分子標的薬などの薬物治療、術前の化学療法や術後のホルモン療法など、治療法の選択肢が多く、がんの性質や進行度を見極め、どういう治療を組み合わせていくか、医師の力量が問われる。

 村上副院長は「岡山県内屈指の6千例近い手術実績に基づく豊富なデータの蓄積があり、的確な治療計画を立てることができる」と話す。

 最新鋭のマルチスライスCT(コンピューター断層撮影)も13年に導入した。消化器、乳腺を問わず、さまざまながんの判別や転移などを診断できる。

 複数のがん看護の専門看護師らが患者をサポート。乳がん患者が1981年に立ち上げた「おおもと会」では、医師、看護師、患者が年に一度集い、親ぼくを図っている。

 山本理事長は「当院は専門医の集まりだが、看護師ら全スタッフが協力し合い患者の人生を支えていきたい」と話している。



おおもと病院((電)086―241―6888)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年04月20日 更新)

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