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(11)まとめ 岡山大大学院教授(医歯薬学総合研究科) 高柴正悟

たかしば・しょうご 福山誠之館高、岡山大歯学部卒。岡山大病院助手、米ニューヨーク州イーストマンデンタルセンター研究員など経て2002年から岡山大大学院教授。日本歯周病学会理事、日本歯科保存学会理事、日本未病システム学会評議員など。

 2014年秋に始まったこの連載は、11回目の今回で終了です。中年になればほとんどの人が歯周病を患い、それを防ぐには歯磨きが大切である、と思われている方々が大部分だと思います。そこへ、口の中に常在する細菌と全身の抵抗力とのバランス、さらには全身への影響を、ライフステージの各段階で考えるという「新しい視点」を知っていただきました。

 ヒトの身体には非常に多くの常在細菌が共に生きて(共生して)います。これらとの付き合い方に間違いがあると、特定の場所で特別な悪影響が出ます。その代表的な例が、口から直腸・肛門に至る一本の管の入り口と出口なのです。

 特に入り口の「口」では、細胞のない歯の表面(硬組織)に歯肉を構成する細胞群(軟組織)が接着していますが、ここにはわずか1~3ミリの溝があります。弱い接着である周囲に細菌が留まりやすい形があるわけですから、それこそ正しく歯磨きを行っていないと細菌が増殖して、この接着が破壊されてしまって、歯周病が始まるわけです。

 ここへ、身体の抵抗力(免疫力など)が虚弱になってしまうという状況が起こると、細菌との関わりが長期間である中年時期ではない時であっても、歯周病が重度に進行する条件が整います。したがって、口の中を清潔にする条件・環境(歯磨きだけではなく歯科治療の結果も)が整っておく必要があります。

 特に高齢者では、ご自身でなさるか家族などの介護者がなさるかにかかわらず、歯磨き(口腔(こうくう)衛生管理)を行うことが容易なように、歯の形(特にブリッジ、歯科インプラント)や口の環境を「整理整頓」しておくことが大切です。こうして、高齢者ご自身や介護者の年齢的な能力に対応した、口腔衛生管理が可能になるのです。

 4月に総務省が発表した14年10月1日時点の人口推計をみると、総人口は4年連続で減少し、15~64歳の生産年齢人口は7800万人を割り(全体の62・3%)、一方で65歳以上の老年人口は3300万人(全体の26・0%)に達しました。40年後にはこれらがそれぞれ、48%と41%になるとさえも言われています。

 こうした時代では、アンチエイジングをめざし続けることは多大な労力・費用が必要となります。上手に歳を重ねていくソフトランディング・エイジング(SoLA=そら)へ考え方を転換することが必要ではないでしょうか?

 口の中の細菌と上手に付き合うために、これら細菌を全滅させるわけでもなく、かといって増え過ぎさせるわけでもなく、仲良く共生関係にあるようにしなくてはいけません。忙しくストレスの多い現代社会において、これを実現するためにほんのわずかな努力によって口の細菌群を正常に保ち、また全身の抵抗力を維持するための習慣を継続することが必要です。

 そのために研究室では、低濃度でも持続的に殺菌する洗口液、歯に付着した細菌の層に染み込んで殺菌する洗口液、そして口の細菌が歯に付着しにくくなる食べ物などの開発を進めています。これらは岡山県の特産品であるものを応用していますが、わずかな努力で口の細菌群を正常に保つ方法となるようにと願っています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年05月04日 更新)

タグ: 高齢者岡山大学病院

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