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(5)うつ病の診断を混乱させているのはDSM―IVである 医療法人社団良友会 山陽病院理事長 中島良彦

中島良彦理事長

 うつ病の病名に混乱をもたらしたのは、1994年にDSM―IVという診断類型(米国精神医学会の診断マニュアル)=表=が日本に入ってきてからと思います。この前のDSM―III(80年)では「この診断マニュアルは、精神科の基本的診断ができるようになっている医師が使用するように」という、ただし書きが付けられていました。DSM―IVになって謙虚さが無くなり、それが忘れ去られてしまったのです。

 デジタル式にうつ病の症状を指折り数えて、「表に挙げた九つのうち五つ以上が同じ2週間の間に存在し、その症状のうち一つは、(1)または(2)であれば大うつ病(うつ病)と診断する」という診断方法です。

 これはあくまでも操作的なものと断ってありますが、これは医師だけでなく、看護師、ケースワーカー、弁護士、保険会社など、どの職種のどのレベルの人とも共通のマニュアルを通して話が通じることを優先して作られたものです。経験豊かな精神科医師でなくとも、研修医でもケースワーカーでも、同じ診断にならなければいけないという前提で作られた乱暴なマニュアルです。

 何をどう混乱させているかと言いますと、うつ病患者さんの症状を、指折り数えていくら集めても、その延長線上には「本物のうつ病」はないのです。そのことが分からないと、正確な診断は付きません。連続していないのです。

 “状況は良くわかるけれどもどうしてそこまで”という追体験ができないような異質性が、専門家には診て取れるのです。そこが違うところです。DSM―IVではそれを抜きにして、この中に本物の内因性のうつ病も新型(現代型)うつ病も同じうつ病に入れてしまったのです。

 DSM―IVは、日本の自殺者が3万人を超えるようになって、政府もマスコミもともに自殺予防の啓蒙(けいもう)に乗り出して、ちょうど専門家でなくても使える、手ごろなマニュアルとして重宝されています。

 うつ病の心配のある人のほとんどの方が初診は一般内科にかかります。ですから、DSM―IVは便利なものでした。しかし、精神科の専門医が使うとなれば、話は別です。不思議なことに、日本の精神医学界はこのDSM―IVの採用に熱心で、94年以降卒業の精神科専門医は、このマニュアルを片手にして診断しています。私は、このことが今日のうつ病の類型が混乱した最大の原因ではないかと考えています。

 精神症状は客観的な目に見える形の傍証がないために、その正確な診断はしっかりとした上司の下で、十分な訓練と経験を積まないと出来ないものです。それはどの業種、業態でも同じことと思います。一般と専門、素人と玄人はハッキリと分かれているのです。

 以上5回にわたり、本物のうつ病と、最近マスコミをにぎわせている新型(現代型)うつ病についての私見を述べさせていただきました。

◇山陽病院((電)086―276―1101)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年05月04日 更新)

タグ: 精神疾患

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