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(5)早期対応のために 倉敷平成病院認知症疾患医療センター長・神経内科部長 涌谷陽介

涌谷陽介センター長

表1

表2

 「ボケてるかどうかなんて調べられたくない!」「みんな年をとったら忘れっぽくなるって言っているし、自分も大丈夫!」「もの忘れが自分でも気になるので早めに調べたい」「テレビで認知症のことをやっていたので心配になった」などなど、もの忘れや認知症に対する思いはさまざまですよね。でも、最近では認知症も他の病気、例えば高血圧や糖尿病などの生活習慣病やがんなどと同じように「早期発見、早期治療、早期対応、早期連携」が大切であると盛んに言われるようになりました。

 医師である私が、40歳ごろ自分の血圧のことが心配になって最初にとった行動は、家電量販店に行ったついでに展示品の血圧計で血圧を測ってみることでした。つまり、誰にも知られずにタダでチェックができたわけです。糖尿病は、かかりつけのクリニック・病院や検診で尿検査や血液検査をすれば簡便に診断が可能です。でも、認知症の場合、早期に診断をしようとすればするほど詳細な診察や検査が必要で時間もお金もかかります。

 認知症の症状にご本人や周囲の方々がはっきり気づいてから受診すると、症状の経過をお聞きして、身体や神経系の診察をして、いわゆる認知機能スクリーニング検査(改訂版長谷川式認知症スケール=HDS―R=など)をすれば、どんな認知機能がどの程度衰えているか判断できます。その上で血液検査をしたり頭部CTやMRIを撮影したりすれば、どのタイプの認知症であるのか比較的正確に診断可能です(例えばこれまでに挙げたアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症)。

 しかし、早期であればあるほど、症状の経過や生活状況をお聞きしただけでは認知症と言えるかどうかはっきりしない、認知機能スクリーニング検査をしても認知機能が認知症と言えるほど低下しているとは断言できない、頭部CT、MRIを撮影してもはっきりとした異常がない、といったことが起こり得ます。その場合、さらに詳細な認知機能検査を行ったり、脳血流検査(SPECT)などの精密検査を行ったりする必要も生じます(表1)

 記憶力や判断力などの認知機能が衰えていることを本人も周りの人も気がついているけど、生活上支障に乏しく認知症とは言えない状態を「軽度認知障害」(mild cognitive impairement: MCI)と定義するようになっています。このような状態から数年以内に10人のうち2~4人が認知症へ移行するという研究も発表されています。認知症に移行しやすいパターンも徐々にわかってきています。

 認知機能スクリーニング検査は、かかりつけ医の先生方が積極的に行っていただけるようになってきましたし、「もの忘れ相談検診」といった取り組みをしている自治体も増えてきました。「脳ドッグ」でも認知機能スクリーニング検査をオプション等でできるところが大半です。「ちょっと気になる」という場合は思い切って受けてみるのもいいでしょう。インターネット上などの「セルフチェックシート」もたくさんありますので、見てみてはいかがでしょうか(表2)。さらに、75歳以上の方では運転免許の更新時に、定められた認知機能スクリーニング検査を受けることが義務付けられているのをご存知の方も多いと思います。

 頭部CT、MRI、脳血流検査といった検査は、設備のある病院に受診しなければなりません。かかりつけ医の先生方と専門病院との連携がとても大切になりますので、きちんと相談をしていきましょう。

 早期診断・鑑別診断(どんなタイプの認知症かを見分ける)、認知症の進行による困難さ(体の病気の悪化、さまざまな精神的な混乱・極端な行動など)に対応するため、岡山県内には7カ所の「認知症疾患医療センター」も設置されており、直通の電話相談窓口が設置されています(岡山県http://www.pref.okayama.jp/page/355687.html、岡山市http://www.okayama-med.jrc.or.jp/dementia/guide.html)。気になること、困ったことがあれば、近隣のセンターにご相談下さい。

 「地域包括支援センター」(倉敷市では「高齢者支援センター」という名称)という行政の窓口は、認知症に関わるさまざまな連携(医療・介護・地域連携や啓発活動)の中核的役割を担っています。認知症の医療やケアに関して情報提供やアドバイスをしていただけます。知り合いの担当者の方も「お気軽に相談してください」と言っておられました(ですよね、○○さん!!)。また、認知症の人と家族会岡山県支部は、県と岡山市の「おかやま認知症コールセンター」になっており、認知症に関わるさまざまな相談にのっていただけます(http://www.alzheimer-okayama.com)。もちろん、地域の中にたくさんいらっしゃるケアマネージャーさんや介護職の方々は身近でとても頼れる存在です。

 認知症に関するいろいろな相談窓口ができて、以前よりもずっと安心が増えました。



 倉敷平成病院((電)086―427―1111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年05月04日 更新)

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