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(上)血液の病気をもっと知ろう 川崎医科大学検査診断学・講師 同大付属病院中央検査部医長 辻岡貴之

 つじおか・たかゆき 川崎医大卒、日本血液学会認定血液専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医。

造血の仕組み

【はじめに】

 血液の病気といえば、どんな病気を思い浮かべますか? 白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫がその代表格です。これらの病気は血液のがんと理解していただくとよいと思います。

 がん? 何やら重々しい響きですが、聞き慣れた言葉でもあります。わが国では胃がん、肺がんの頻度が高いといわれています。皆さんの周りで、血液の病気にかかられた方はおられますか? おそらくほとんどおられないと思います。統計的に白血病患者は胃がん・肺がん患者の10分の1程度といわれています。しかし、白血病という病名は意外に有名で、それは映画やドラマの主人公が白血病で悲劇的な最期をむかえたり、有名人が病名を公表するからかもしれません。

【血液疾患の予後は徐々に改善してきている】

 確かに血液の病気は怖い。罹(り)患すれば重症というイメージですが、最近の医学の進歩によって血液疾患の予後は徐々に改善されつつあります。例えば慢性骨髄性白血病という病気があります。染色体の9番と22番の相互転座によりBCR―ABL1融合蛋白(たんぱく)が産生され、起こってくる病気です。

 20年前は、効果的な治療法がなく、この病気と診断されることは事実上、死の宣告に等しいものでした。しかし、最近になってイマチニブという白血病細胞の増殖を抑える薬が使えるようになってから、この病気で亡くなられる患者さんは少なくなりました。

【専門施設ではどのような検査を行うのか】

 先ほど、血液疾患の頻度はまれであると書きましたが、年々増加しているといわれています。それは病気そのものが増えていることもあるのですが、一般の方が健康診断を受ける機会が多くなり、血液疾患と診断されることが多くなった結果ともいえます。

 血液疾患の診断は大抵、ちょっと痛い検査ですが、骨髄検査といって、骨の中にある骨髄液を採取して行います。血液細胞は骨の中にある骨髄で造られるため、ここを調べることによって病態が明らかになることが多いのです。また、最近は病気の診断に特定の遺伝子変異を調べることがあり、より診断が容易になってきております。

 ただ、これらの検査はどこの病院でもなされているわけではなく、血液内科のある限られた専門施設でのみなされております。効果的な治療を受けるためには、正確な診断が必要です。近くの病院で異常を指摘された場合はぜひ、設備の整った専門施設への受診をおすすめします。

【おわりに】

 血液疾患が治りにくく、厳しい病気であるという事実は今も昔も変わりません。しかし、診断技術の向上、新しい治療法が数多く導入されたことにより、予後が少しずつ改善してきていることも事実です。将来的には診断名に基づいたオーダーメード治療も可能になってくるかもしれません。

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川崎医科大学病院((電)086―462―1111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年05月18日 更新)

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