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迅速、的確な対処で時間との闘い制す 心臓病センター榊原病院(3)

心臓の構造などについて丁寧に説明する山本副院長

カテーテル治療を終え、表情を和らげる廣畑主任部長

慎重に検査を進める林田部長

 冠動脈が狭くなる狭心症、詰まって心筋が壊死(えし)する心筋梗塞、不整脈、弁膜症、心不全…一口に心臓の病気といっても多くの種類がある。「それら心臓の個別の疾患に、それぞれスペシャリストがいる。いわば専門医の集団であり、スペシャリストを軸に適切な医療を提供していくことができる」。心臓病センター榊原病院(岡山市北区中井町)の山本桂三副院長は、専門病院の強みを話す。

 医師だけではなく看護師、放射線技師、臨床工学技士らも循環器疾患を扱い慣れ、強固なチームで病気に挑む。「窓口の職員たちも同じ。外来の患者でも実は緊急を要する場合がある。心臓疾患を理解しているから、『これは』という患者をすぐ診療に回し、貴重な時間を無駄にしない。普通の総合病院であればどうだったかと、時に思うことがある」。いつか駆け込むかもしれない側として山本副院長の言葉は心強い。

 同副院長によれば、急性心筋梗塞の死亡率は一般病院で約10%、専門医がいる病院では同5%、榊原病院では2・2%という。

 心臓の急性疾患は時間との闘い。迅速、的確な検査と診断が最初の鍵になる。林田晃寛循環器内科部長はこの世界で意外に少ないという心不全の専門家。「心臓の機能が悪くなる心不全の要因は弁膜症や心筋梗塞、心筋症と数多い。必然的に、心臓全般を知らなければならない」。いってみれば心臓に関する総合医。その知識と経験が、限られた時間での検査や診断に生きる。

 急性心筋梗塞の患者が運び込まれる。心電図やレントゲンで病状をつかみ、超音波検査へ。患者の体にブローブ(超音波の送受信部分)を当て、慎重に診ていく。「あっ、心臓のこの部分の動きが悪い。であればあの血管が詰まっている、などと考える」。事もなげに説明するが身体各部の超音波検査の中で、心エコーは最も専門知識が要求され難しいといわれる。

 検査としては、弁膜症の手術の前などには「経食道エコー」を行う。食道は心臓のすぐ後ろに位置する。胃カメラの要領で患者の口からブローブを入れ、食道や胃の中に置けば患者の心臓の病態がより詳細に把握できる。心臓の弁の動きや形も分かるという。

 冠動脈が何カ所も詰まったり、根本部分が詰まってバイパス手術が必要な場合を除き、急性心筋梗塞も多くはカテーテルで治療が行われる。手首や太ももの動脈から入れたカテーテルを心臓に到達させ、閉塞部にまずガイドワイヤを通した上でバルーンを膨らませ、血流を回復させる。再狭窄(きょうさく)防止へ金網状の筒(ステント)を留置することが多い。

 心臓のカテーテル治療は迅速に行え、体への負担も少ない(低侵襲)。超高齢化時代を迎え役割はますます大きい。この20年ほどで急速に普及したが、経験がものをいうことも確か。詰まった血管の先は造影剤を入れても見え難い。「先の状態を予想しながら、慎重に治療を進めていく必要がある」と廣畑敦循環器内科主任部長。時間に抗(あらが)いつつ、冷静な対応で命を救い続ける。

 医療技術の進歩も患者と医療者を助け、支える。「エキシマレーザー」は3年前に保険適用されたばかり。カテーテルで装置を心筋梗塞や狭心症の病変部まで進め、血管を狭めたりふさいだ組織(プラーク)に紫外線レーザーを照射、蒸散させてしまう。クールレーザーとも言われ、ほとんど熱を発しない。残ったプラークのかすは人体の免疫機構が処理してくれる。

 一方で病気の方も手強い。慢性化し、石灰化したプラークが長さ5センチ以上も冠動脈をふさぐことがある完全閉塞。人工ダイヤのチップを埋めた先端の高速回転ドリルで病変部を削る「ロータブレーター」が登場する。

 ただ、素人でも分かるように、血管穿孔(せんこう)などのトラブルも起こりがち。高度な技術と経験が求められる。「血管自体ももろくなっているし…。だからこそ慎重な施術を期している」。廣畑主任部長は、そうした手術を500例以上もこなしてきた。

 もし穿孔などの事態が起きれば直ちに緊急の外科手術。いざという時に備え、充実したバックアップ体制を敷けるのも専門病院の強みだ。

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 再発予防にも効果が大きいとして近年、心臓の分野でもリハビリの重要性が言われる。榊原病院は25メートルプールを含む充実したメディカルフィットネスの設備を整えている。将来の病気予防のために通う人も多い。「救急から予防まで、一貫してきちんとケアするのがプロの仕事だと思っています」。一通り話を聞いた後の山本副院長の言葉は、説得力があった。



 心臓病センター榊原病院((電)086―225―7111)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年05月18日 更新)

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