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認知症看護・認定看護師手嶋幸恵さんに聞く 自尊心傷つけないケアを

認知症看護の知識について話す手嶋さん

 厚生労働省の推計によると、認知症高齢者は2012年時点で約462万人。“予備軍”となる軽度認知障害の高齢者も約400万人に上るとされる。高齢化の進展とともに、増加する認知症。最近も「ドラえもん」などで知られる声優・大山のぶ代さんが認知症であると公表されるなど、社会の関心も高まっている。家庭でも役立つ看護の知識について、岡山赤十字病院(岡山市北区青江)の認知症看護認定看護師・手嶋幸恵さんに聞いた。


 ―認知症看護認定看護師の職務とは。

 「認知症看護のエキスパートとして、患者の認知機能や生活の状態に合わせた適切なケアを実践するとともに、看護職への指導や相談に携わることが求められている。普段は内科病棟勤務だが、週1回の活動日に他病棟を横断的に回り、現場の看護師から患者対応について相談に応じる。総合病院なので、どの診療科にも認知症患者がおり、どの看護師も専門的な対応ができることを目指している」

 ―現場の看護師からどのような相談があるのか。

 「多いのは、不眠で夜に大声を出す事例。昼夜逆転を防ぐため日中になるべく起こすようにしている。睡眠薬を処方している患者に対しては、医師、薬剤師らとともに薬の効き方などを検討し、投薬タイミングを調整している。病院内での徘徊(はいかい)は転倒事故にもつながり危険だが、原因を探ることで改善する場合も。ある患者は病室内のトイレが分からず室外へ出ていたが、トイレ前を覆うカーテンをはずすと行動が収まった。別の患者は、トイレの照明スイッチが見つからず不安になり室外へ。『照明は自動で切れます』と目立つ場所に張り紙するだけで、安心して眠れるようになった」

 ―家庭で介護している人にも参考になりそう。特に気をつけているポイントは。

 「先入観を持たず、一人の患者、年長者として敬う姿勢が重要。その人らしさを無視したケアは自尊心を傷つける。心臓病や骨折など別の疾患で入通院する人も多いが、実際に患部に触れるなどの工夫をして、患者が分かるように病状を説明する。『理解できないし、忘れるから』と家族だけに説明すると、患者はなぜ病院にいるか分からず不安になる。入院で住み慣れた家や施設を離れることも精神的ダメージに。家族らから普段の過ごし方などを聞き取り、寝かせきりにしないよう環境を調整することが大切だ」

 ―周囲に気になる症状の人がいたら、どうすればよいか。

 「岡山市では地域包括支援センターが月1回、もの忘れ相談会を市内で巡回開催している。私も相談員として参加しているが、『家族が認知症かも』『認知症だが一人で外出させて大丈夫か』などさまざまな悩みが寄せられる。気軽に相談に来てくれれば、早期発見につながりやすい。全国で認知症サポーターの養成も進んでおり、家族だけで抱え込まず、地域の人の協力を仰いでいくことが必要だ」

 ―今後、認知症患者はさらに増加していく。

 「誰でもなる病だが、早期発見し治療すれば進行を遅らせることができる。いつも捜し物をしていたり、きれい好きな人がだらしなくなるなど必ず予兆があるので、見逃さないことが重要。病院や認定看護師の立場としては、講習会など地域での啓発活動にもっと力を入れ、“見守りの目”を増やしていきたい」



 てしま・ゆきえ 2004年から岡山赤十字病院の看護師。岡山市の委託で、11年に同病院が岡山市認知症疾患医療センターを開設したことを受け、エキスパートの必要性を感じ、14年に認知症看護認定看護師の資格を取得した。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2015年06月01日 更新)

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